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スレナス物語(アンスロポスシリーズ)  作者: 緒方 敬
第11章 カエサリア
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カエサリア-12

章タイトルの変更と、章の再編制を考えております。

●拓かれた未来

「あたし。死ぬの?」

 熱いお湯を飲み込んだような喉の痛み。お腹の中が裏返しになりそうな吐き気。

 締め付けられるような頭の痛み。背中の皮が破れたようなひりひりした感じ。

 息をするのも苦しくて、ポロポロと涙は止まらない。

 熱かったと思えば、直ぐに雪の中を転げたように寒くなる。

 身体は震え、足の裏は針で刺したように痛み続ける。

「ジュリー!」

 坊ちゃんの声が呼ぶ。あたしは舐めただけなのに、あれだけ飲んだ坊ちゃんは平気。

「案ずるな、直に治まるでおじゃる。うぬさちを祝うのじゃ」

 変なおばさんはそう言った。

 上も下も判らなくなって。脂汗が床を浸すほど出る。


 どれ位経っただろう。ぼーっとした目の前がはっきりして来る。

「…リー。ジュリー。やっと気が付いたね」

 覗き込むぼっちゃん。

「ここは?」

 あたしは変なおばさんに膝枕されていた。


わらわ。そこな樽を持ち上げるでおじゃる」

 変なおばさんが指差したのは、大人の男の人が2人掛りで持ち上げる樽が一つ。

「む、無理です。大人の人でも1人じゃ無理です」

「簡単だよ。ほら」

 あたしの目の前で樽の縁を掴んで、猫の仔の首を掴んで持ち上げるようにひょいと膝の高さまで持ち上げるぼっちゃん。

「ジュリーも出来るよ」

 あ。そうか。空っぽの樽だ。でも空でも結構重いよ。坊ちゃんって力持ち。

 坊ちゃんみたいには出来ないけど、両手で抱えたら出来るかも。

「こうですか?」

 あっけないほどあっさりと持ち上がる。そして、

「え?」

 中で水音。中身は8分位入っていました。

「成功でおじゃる。ざっと5人力でおじゃるな。鎧を着け、槍を振るうには充分過ぎる力じゃ。主殿ぬしどのに及びもつかなぬが、うぬも既にいっぱしのつわものでおじゃる」

「え? ええっ!?」

 今日は、あたしの運命が変わってしまった日だったのです。


●潜む者

 わたくしは見えぬ壁の前でやきもきと待っている。30分ほど突っ立っていると、奥のドアが開いた。

「大丈夫か?」

 まだ見えぬが、複数の足音に声を掛ける。

「ローランさん。終わりました。今戻ります」

 スレナスの声だ。ランプの灯りに照らされて、3人の顔が見える。

「あ、お客様。やっと出ていらしたのですか」

 酒蔵のあるじがほっとした声で、見知らぬ1人に話し掛ける。

「世話を掛けたでおじゃるな。御亭主、半分ほど空けてしまったが。気前の良いこの主殿ぬしどのが払って下さるそうじゃ。いかほどでおじゃるか?」

 なんと酒蔵の半分を呑み干したと言う。

「半分!? 原価でも10ソルディはしますぞ」

 大金貨10枚。熟練職人1年分の収入にも匹敵する大金だ。

「おじさん。生憎現金での持ち合わせは在りません。これでは駄目ですか?」

 スレナスが取り出したのは、神殿騎士団発行の為替が一枚。

「あ、いやいや。構いません。充分です若様。印もサインも紛れも無き本物。王都ルテティア支部長の筆跡は、何度も見ております。譲渡の裏書と振り出し主の筆跡も問題ございません」

 若様と呼んだのは恐らく、こんな高額の為替を振り出す事が出来るのは、大商人か王侯貴族以外ありえないからであろう。

 立て篭もり事件も円満解決し、再びこの地で英気を養おう。と思った矢先。

 スレナスに随身したばかりの女は、背の大剣の柄に手を掛け、眸を細く絞りつつ警告した。

主殿ぬしどの。お気をつけ召され。主殿ぬしどのの連れが申しておるでおじゃる。街に入ってより、短剣を忍ばせ主殿の様子を伺うものが居るとな」

「何?!」

 ローランも反射的に剣の柄に手を掛けた。


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