プリンス&プリンセス-2
●召集
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命令
王家勅隷部隊青銅士にしてミラの代官
ルーケイ辺境伯継嗣スレナス・バルディエ・ド・ルーケイに対する召集命令。
本日夕の鐘までに、王宮果樹園内バルディエ本宅にて待機すべし。
王国宰相アルマン・ジャン・デュ・ブシュケ。
命令終わり。
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内々に、宰相閣下からのお召しが僕に下ったのは、冒険者ギルドに着いて間も無くだった。アベルとデートさせる為にジャンヌお姉さまを連れてやって来た僕に、王宮からの書状が届いたのだ。
丁度入れ違いになったようで、使者殿は貴族街の別宅経由で参られた。
「母上の在所に参れと言うのは、内々のお召しだな?」
同封の免状には本日の日付が書かれ、母子の面会差し許すとある。
「は。表向きは母子の面会を口実にします」
僕は一呼吸考え、
「舘へ参るに、供を連れて良いか? 武器を持たぬ女の子だ。無論同席はさせぬ」
「如何なる仕儀で」
「僕の母上に対する護りだ。さもなくば、母上も同席するだろう」
王家勅隷部隊青銅士。即ち冒険者ギルドブロンズライセンスの資格で僕を召集する以上、バルディエの家は直接には関係しない。この場合母は部外者と言うことになる。そして母の在所へ参るからには、僕の着せ替え人形と幼児扱いは必至。つまり連れて行く供は、母上に対する自分の身代わりである。
そう説明すると、
「そう言えば、スレナス殿はまだ5歳でありましたな。確かに御母堂の列席は拙い。そう言うお話であれば、我が一存にて承諾仕ります」
納得した使者殿より、快い返事が返って来た。
この後、グース家に赴いた僕は予定を早々と切り上げる。
「宰相様の名で、王宮よりお召しの書状が参りました。夕刻までに準備を整えねばなりませぬ」
僕が理由を話すと、奥方は我が事の様に喜んで、
「機会を逃しては為りませぬ。急ぎお行きなさい。バルディアならば王太子殿下の侍女も勤まりましょう。当家の嫁に出来ぬのは残念ですが、お家の大事には代えられませぬ」
と、例によって少し勘違いが入っていた。何にしても、やっとややこしい事態は解決しそうだ。
ジャンヌお姉さまの憧れを利用する事になるけれど、アベルが好いてくれれば軟着陸。レイさんの作戦通り、徐々にアベルの心に棲む人を、バルディアからジャンヌお姉さまへ変えて行こう。
少なくとも、ジャンヌお姉さまはアベル、と言うか物語の王子様に憧れを抱いている。そしてアベルはアベルで、口数少ない内気な姫を心憎く思っている。好きの続きが恋になることが在ってもいいじゃないか。
(うん。我ながら悪党だ)
僕は心の中でほくそえんだ。
「ケティ!」
奥様は、鈴を鳴らし侍女を呼ぶと、
「先日用意したドレスを持って来なさい」
そのまま着せ替え人形モードに入りそうになった所を、
「いえ。王宮より一切合財が、届けられております。宰相様のご好意を無駄にする訳には…」
なんとか凌いでグース家を後にした。
唯一の計算違いは、帰りの馬車に転がるチェスト1つ。何着ものドレスを押し付けられたことであった。




