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スレナス物語(アンスロポスシリーズ)  作者: 緒方 敬
第07章 天国と地獄
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天国と地獄-2

●戸惑い

 ぐったり。体中の節々が悲鳴をあげ、目と頭がズキズキ痛む。手の甲とお尻は腫れ上がって熱を持ち、腰には確りコルセットの跡。

「ちゅくしょう! なんだってこんな事に」

 夜着に着替えさせられたジャンヌは呟く。

 礼儀作法ではミルテと言うババァにしごかれた。頭に水瓶を載せて真っ直ぐ歩く。怒鳴られ尻を打たれ、それでも全然終わらない。甘いお菓子の出る休憩時間も、やれカップの持ち方がどうの飲み方がどうのと、何度鞭を当てられたか。

 やっとババァから解放されたと思ったら、今度はスレナスが本の読み聞かせ。それが終わったらルリって奴からダンスとハープを習う。

 晩飯は白いパンに肉が出る。砂糖と塩とスパイスをふんだんに使った手の込んだ贅沢料理。

 ご馳走の山は良いけれど、ここでも作法が喧しく、とちる度に手の甲に鞭が飛んで来る。しかもコルセットが締め付けて、空腹にも拘らず全然腹に入らなかった。

 そして漸く就寝時間。オイラはやっと1人になれた。


 きゅるるる~。腹の虫が鳴きやがる。そりゃ今まで、何日もメシ抜きがあったさ。でも、あれだけのご馳走を出されているのに、全然食えなかったことは初めてだ。無けりゃ我慢できるが捨てるほど有るのに食えないのはつらい。

「痛ぇ~」

 うつ伏せに寝転んだオイラの尻に鈍痛が走る。滅茶苦茶柔らかいベッドなのにそれでも痛む。あのババァ。孤児院でもこれだけ打たれたのはイタズラが過ぎた時だけだぞ。

「よっ」

 いつの間に現れたんだろう。オイラの服を剥ぎ取ろうとしたスケベな兄ちゃんが、ベッドの傍に立っていた。

「どうだい。お貴族様の生活は…」

 にゃっと笑う兄ちゃん。

「痛いし窮屈だしも惨々だよ。ご馳走の山なのに食べれやしない。腹減ったぁ~」

「ははは。そんなこったろうと思って、持って来たぜ」

 兄ちゃんは包みを解いて食い物を横に置いた。

 おかずを挟んだパンだ。水筒から注がれるのはミルク。オイラ、反射的にむしゃぶりついていた。

「ごほんごほん」

「お前なぁ~」

 むせるオイラの背中を、兄ちゃんがさする。

「貴族の姫になりたきゃ、先ずそいつを直したほうがいいじゃん」

 言われて途端に怖くなった。ちゃんとレディーに成れれば良し。さもなくば鉱山送り。

 鉱山で働く男の奴隷は女に餓えていて、3つのガキから棺桶に片足突っ込んだババァまで見境無い。

 いや、野郎でも13歳以下は危ないとも聞かされている。

「……」

 急に震えがやって来た。

「兄ちゃん…」

 気が着くとしがみ付いていた。


●バルディエの依頼

「お、い。どどど、どうしちゃったんだ。いや、美人にしがみ付かれて嬉しいじゃんか」

 ロート・ブリレは狼狽した。

 夜着の薄衣うすぎぬ。ジャンヌの身体の温もりを直に感じる。未だ幼児の体型を残す彼女の体躯はスレナスの物と大差無い。しかし、女の子特有の柔らかさを肌に受け、ロートの理性は決壊寸前にまで追い込まれた。

「はろー」

 だがその直前、首筋に冷たい鉄の感触。

「わっ。ガレットかよ。まだなんにもしてねーよ」

「ふーん。まだってことはする積りだったんだよね」

 背後にへばりついたガレット・ヴィルルノワの指先がちょっとだけ動く。

「はははは。それは言葉の綾だぜ」

 頚動脈の上の薄皮一枚を正確に斬るガレットの腕。

「でも、周りの警戒が疎かになるくらい、その子に心を奪われていたのは確かだよね。それとも、あたしの腕が飛躍的に進歩しちゃったのかな?」

(やべっ)

 ロートは凍った。このままじゃ、ちはやふる後朝きぬぎぬの別れ所か、血早降る別れになっちまいそうだ。女の子から抱きつかれて、未練は残るがここがしおか。

「な、なんのことじゃん。オレは抱きつかれただけじゃんか」

「ふーん。ならいいけど」

 やっとガレットはナイフを引っ込めて、ロートに告げた。

「スレナスの親父さんからギルドに依頼。ジャンヌの教育よ。読み書き・計算・音楽・詩歌・礼儀作法。魔法や応対辞令、顔色の読み方。とにかくジャンヌの役に立ちそうな事なら何でもいいって話よ。あんたも一枚噛んで見る?」


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