転生-3
●神託
明けの星が天に輝く頃。
領主バルディエは鎧戸を上げ星を眺める。
「神託を享けたのは、味方が崩壊寸前の戦で辛くも凌ぎ勝利した日の前夜であったわ」
思い起こすあの戦いの日々
騎馬のみを率い、馬に枚を咬ませ星明りを頼りに迂回を仕掛けておる最中。
隊の先を遮る様に現れた神官がおった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
耳の有る者は聞け。天地を創らせ賜いし主は生きておられる。
コウモリの紋章を掲げし比興の将。
並びに剣執る兵達よ。
まことにまことに汝らに告げん。主は斯く仰せられる。
明日、敵を汝らの手に渡す。
国を滅ぼす負け戦は、汝らによって勝者を変えん。
泥より生まれし汝らを、我は天に掲げるだろう。
比興の将よ。汝の初穂を聖別する。
甕星より流れし星と共に、生まれし和子を我は祝す。
流れ星は箒星の如く尾を引き、和子の誕生を証しする。
星に掲げ、スレナスと名付けよ。
汝の若枝は我がしもべ。勝利を約す御神の子
我が剣と成りて敵を討ち、我が笏と成りて地を統べる。
汝が初子に我は与えん。
敵の首・聞き分ける耳・富と長寿。
三つの物のいずれかを。汝の望むいずれかを。
汝が長子に我は与えん。彼が望む一つの物を。
征け! 比興の将バルディエ。
天を回し地を定めよ。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「今思い返しても、不思議な事であったわ」
あと少し、戦場に着いたのが早かったら。敵の予備が残っていた。
あと少し、戦場に着いたのか遅かったら。敵が勝利を握った後だ。
味方に止めを刺す為、虎の子の親衛隊を繰り出して切り結び始めた直後に、
背後より現れたバルディエ隊が、危急存亡の戦の帰趨を決したのだ。
「お殿様。只今戻りました」
いつの間にかバルディエの脇に、猫族の娘タンゴが片膝を付いて控えていた。
「都の様子はどうだった?」
「相変わらず雀どもが煩くしております」
「だろうな。その半分はわしの事だろう」
「御意」
「未開の辺境と敵地間近でなくば、こんな大封当たりはせん。
まあ、辺地で好き事も少なくは無い。家臣となった部下達も、武辺揃い。
領地経営はからっきしだからな。平和な土地ならば直ぐに借金漬けにされるだろう」
「その代わり。一朝時あらば戦場となるこんな土地に、
好き好んで移住する農民は希少ですが」
結局、バルディエは足らずを金で解決することになった。
「さて、神託が正しければだが」
バルディエはタンポポの茶を啜り、未だ明けやらぬ天に呟く。
「わしの望み次第で、息子に主の賜物を選べるらしい。
敵の首・聞き分ける耳・富と長寿。わしは親として何れを望めば良いのだろう」
半ば信じ半ば疑う。神託は必ずしも良いことばかりではないのだから。