表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スレナス物語(アンスロポスシリーズ)  作者: 緒方 敬
第01章 転生
4/102

転生-3

●神託

 明けの星が天に輝く頃。

 領主バルディエは鎧戸を上げ星を眺める。

「神託を享けたのは、味方が崩壊寸前のいくさで辛くも凌ぎ勝利した日の前夜であったわ」

 思い起こすあの戦いの日々


 騎馬のみを率い、馬にばいを咬ませ星明りを頼りに迂回を仕掛けておる最中。

 隊の先を遮る様に現れた神官がおった。

――――――――――――――――――――――――――――――――

 耳の有る者は聞け。天地を創らせ賜いし主は生きておられる。

 コウモリの紋章を掲げし比興ひきょうの将。

 並びにつるぎ執るつわもの達よ。

 まことにまことに汝らに告げん。主は斯く仰せられる。


 明日、敵を汝らの手に渡す。

 国を滅ぼす負け戦は、汝らによって勝者を変えん。

 泥より生まれし汝らを、我は天に掲げるだろう。


 比興ひきょうの将よ。汝の初穂を聖別する。

 甕星みかぼしより流れし星と共に、生まれし和子わこを我は祝す。

 流れ星は箒星ほうきぼしの如く尾を引き、和子の誕生をあかしする。

 星に掲げ、スレナスと名付けよ。


 汝の若枝は我がしもべ。勝利を約す御神みかうの子

 我が剣と成りて敵を討ち、我がしゃくと成りて地を統べる。


 汝が初子ういごに我は与えん。

 敵の首・聞き分ける耳・富と長寿。

 三つの物のいずれかを。汝の望むいずれかを。


 汝が長子に我は与えん。彼が望む一つの物を。


 征け! 比興ひきょうの将バルディエ。

 天を回し地を定めよ。

――――――――――――――――――――――――――――――――

「今思い返しても、不思議な事であったわ」

 あと少し、戦場に着いたのが早かったら。敵の予備が残っていた。

 あと少し、戦場に着いたのか遅かったら。敵が勝利を握った後だ。

 味方に止めを刺す為、虎の子の親衛隊を繰り出して切り結び始めた直後に、

 背後より現れたバルディエ隊が、危急存亡のいくさの帰趨を決したのだ。


「お殿様。只今戻りました」

 いつの間にかバルディエの脇に、猫族の娘タンゴが片膝を付いて控えていた。

みやこの様子はどうだった?」

「相変わらず雀どもが煩くしております」

「だろうな。その半分はわしの事だろう」

「御意」

「未開の辺境と敵地間近でなくば、こんな大封当たりはせん。

 まあ、辺地でき事も少なくは無い。家臣となった部下達も、武辺揃い。

 領地経営はからっきしだからな。平和な土地ならば直ぐに借金漬けにされるだろう」

「その代わり。一朝時あらば戦場となるこんな土地に、

 好き好んで移住する農民は希少ですが」

 結局、バルディエは足らずを金で解決することになった。

「さて、神託が正しければだが」

 バルディエはタンポポの茶を啜り、未だ明けやらぬ天に呟く。

「わしの望み次第で、息子に主の賜物を選べるらしい。

 敵の首・聞き分ける耳・富と長寿。わしは親として何れを望めば良いのだろう」

 半ば信じ半ば疑う。神託は必ずしも良いことばかりではないのだから。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ