うちの人にかぎって-2
●恩恵
ギルドの冒険者区域は、関係者以外お断りの場所である。
更に奥には、ギルドが認めた実力者メンバー。あるいは彼らが関わる事件の当事者以外
入れない場所がある。
スレナスのラスセンスで入れる場所は、ほんの入口。初級冒険者のエリアだ。
流れる情報も大したものは無い。だがそれでも街では聞けない話が嫌でも耳に入って来る。
「うち大将とルーケイ伯の決闘の場から居なくなった女の子。あれ、見つかったのか?」
ルーケイ伯の名に、自然と耳をそばだてるスレナス。
「珍しく警邏隊が大将に協力して探してくれているが、奴らは王都の島の中がテリトリーだ。
橋の向こうじゃ大した情報は掴めまい。伝も無いし、橋向こうの悪どい連中は、
嵐の過ぎるのを身を伏せて待っているからな」
「やはりな。あちらの治安が少しだけ良くなっただけか」
「前々から流れていた、元貴族の奴隷がセリに掛けられるって噂は、マリー嬢で確定だな」
「うぉぉい。セリに出されたらことだぞ。買値に色付けただけじゃ買い戻せねぇ」
良く判らないが、ややこしい事になっているようだ。
立ち止まり話を聞いていると、
「あ、いたいた。スレナスさん」
シャルロッテにむぎゅっと抱きしめられた。
「遅いですよ。今日は私の所で治癒魔法のお勉強するって約束してませんでしたか?」
尤もいくら魔法のお勉強をした所で、使える様になるかどうかは、主の賜物による。
教えられる者も多くない上、何年も修練して使えず仕舞いで終わることも良くあることだ。
しかし危害を及ぼす魔法を受けた事になった時、心得のある者はより軽微な被害で済む。
また治癒魔法の様に恩恵をもたらす魔法ならば、その効き目が向上する。
これが冒険者が魔法を学ぶ意味である。
「でも、これってほんとは、沢山お金が掛かる事でしょ? 僕持ってないよ」
「いいのいいの。私が教えたいんです」
なぜか知らないけれども、スレナスはギルドのメンバーに愛されている。
ガレットは弓と隠密行動を、ヒールとシャルロッテは治癒魔法を教え、
他の面々も皆競って自分の技術を教えようとするのだ。
●共に歩む者
「ルリ。ぼーっとしてますね。今はお勉強の最中ですよ」
ミルテはピシッと机を叩いた。
「ご、ごめんなさい」
鞭の音に強張るルリをミルテは諭す。
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多くを任された者は、多くを求められる。何も主の御国に限った事ではありませんよ。
いいですか、あなたにはチャンスが与えられているのです。
若様が家督相続なさった時、あなたはその腹心としてお仕えしなければなりません。
その権限たるや下級貴族を凌駕します。あなたのしくじりは、即お家の没落と考えなさい。
いいですか。私はあなたにその能力が有ると思うからこそ、教えているのですよ。
お家は辺境伯とは言え、出来星貴族。軍人貴族故に武人や戦上手には事欠きません。
ですが帳簿を見たり、出納を管理する者が足り無すぎるのです。
出来星貴族の家だからこその実力主義。有能を示せば、富貴の道は開かれるのです。
お殿様の愛玩動物、若様のぬいぐるみで終わりたいのですか?
若様の有能な腹心になりなさい。若様と共に歩む者に。そうすれば、
お殿様も私も、若様のお気持ち次第ではあなたを若様の側室にしても良いと考えています。
いいですか? 愛人ではなく側室ですよ。
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「ルリがスレナスのお嫁さん?」
頬を赤らめるルリ。その反応を見てミルテは言った。
「嫌ですか? 側室の話は辞退する事も認めます」
慌ててルリは頭を振った。




