転生-2
●僕の家
僕が生まれたのは、前世で読んだライトファンタジーのような世界だった。
人族以外にも、巨人族・エルフ族・ドワーフ族。他に猫族と呼ばれる猫耳人間等がいる。
因みにエルフ族の耳は、一見すると人間と殆ど変わらなかった。
但しすらりとした長身で、長髪が似合う美形ぞろいらしい。
長命種族なのは定番だが、人族より体温が低く低血圧気味で、寝起きに弱いのが特徴だ。
流行り病などでは人族よりもあっけなく死んでしまう事が多い。
ドワーフ族は小柄でがっしりとした体格の持ち主。人族より体温は高く力持ち。
寿命は人族より短いが、滅多な事で病に罹らない。手先が器用で職人肌な奴が多いと言う。
巨人族は文字通り、人族よりも長身で大柄な種族。前世の僕が読んだ物語では、
鈍間に描かれることの多い種族だが、決してそんな事は無いらしい。
但し、耳にした限りでは脳筋な体育会系な奴ばかりだと言う。
猫族は頭に猫耳が着いている他は人間に似通っている。一般的に身軽なものが多く、
声のトーンが人族よりも高いのが特徴だ。
さて、僕の身体はやっと1人で座れるようになったばかり。
推定6ヶ月前後と言うところだろうか。
睡眠も夜に固まり、目覚めた時はいつも明るい時間になっていた。
耳にした会話から少しずつ情報を整理して行くと、僕の家は爵位は判らぬが貴族。
それも殿様と呼ばれる領地持ちで、かなりな家臣を抱えて居るらしい。
「ミルテさまぁ~。スレナス、起きたよ~」
僕の横に付きっ切りの女の子はルリと言い、身分は奴隷。なんとこの僕が主人らしい。
まだ5歳だが、子守として僕に仕えているようだ。
「ルリ。若様と言いなさい」
奴隷と言っても小さな子供相手なので口で叱るだけの乳母。
名をミルテ・グリューネバーグと言う。僕の家の有力家臣の奥様だ。
貴族の家において、乳母は単に乳を与えるだけの役目ではない。
子供の躾と教育、果ては将来の嫁を決める発言権も持つ重職だ。
一族郎党を上げて一蓮托生の味方となり、後継者争いともなれば僕の派閥の中核となる。
「ママ~」
トコトコと遣って来るのは、僕の将来の側近候補。3歳になる乳母の息子・レオニール。
前世の記憶を持つ僕からすれば、頼もしいと言うよりは可愛いと言う方が早いお子様だ。
可愛らしいがやんちゃな奴。僕が寝ていると耳を引っ張ったり鼻をつまんで、
ルリに叩かれて良く泣いた。ルリの身分は奴隷だが、僕を護る役目を帯びている。
だから僕を害する悪戯を制裁しても許されるのだ。
さっきから何度も奴隷と言っているが、ルリは幼い割りに立ち振る舞いが上品だ。
だから元はどこかのお嬢様だったのかも知れない。
僕が乳母の乳を吸っていると、
「若様。俺が獲った猪です」
ごろっと背負ってきた獲物を床に置く男。この時々顔を見せるジャンと言う大男は、
巨人族ではなく歴とした人間族。何故か親父を隊長と呼んでいる。
「ジャン様。卿も今は男爵様にございます。
いつまでも昔の切り込み隊長の積りでおいでに為られるのは、いかがなものでしょう」
乳母のミルテが苦言を呈す。
そう、僕の家は新興貴族。それも武勲で位を得た軍人貴族だ。
でも、このおっさんが男爵だとすると、それを家臣に持つ僕の家はもっと上なんだろな。