三つの決闘-2
●目玉商品
「それとさ。忘れちゃいけない重要なことがあるよね」
公正な立会人や場所の整備など、決闘の準備を整える冒険者ギルドの面々。
ある程度準備が整ったところで。ガレットが声をかけた。
もうひとつの重要なこと。それは、依頼人の少女マリーの身柄の確保だ。
決して安くはない冒険者ギルドへの報酬。
まして今回は、実りの無い復讐を思い直させる意味も含めて高値に設定された15ソルディ。
凡そ馬20頭を購入する代価・司教様の3ヶ月分の歳費・熟練職人の年収に当たる大金である。
なのに、冒険者ギルドがそれを告げた翌日に持参した大金貨15枚。
貴族の身分も後ろ盾も失った年端も行かぬ彼女が、どうやってそれだけの金額を用意したのか。
少し考えれば、その手段は想像がつく。
彼女が持つもので最も確実に、最も高く売れるもの。即ちそれは、彼女自身に他ならない。
冒険者ギルドの有志が調べた結果、事の次第が済んだら、
マリーは自分を『商品』としてとある商人に身柄を預けることに為っていることが判明した。
「参りましたわ。『商品』として出ていない彼女に、買い値の5倍の値が付いているなんて」
奴隷商人との買戻し交渉に赴いたヒールはギルドに報告した。
伝え聞いた情報を元に予約者が何人も出ており、非常識な高値になってしまったのだとか。
75ソルディと言えば宰相閣下の聖俗合わせた歳費の半年分。つまり宰相閣下ですら
簡単に支払える額を超えているのだ。常識的に考えれば、吹っかけてきたとしか思えない。
「すると、彼女を買い戻すとしたら、セリに参加するしかないのか」
アレクシアスは難しい顔。
「ええ。商売上の都合から、どうでもマリーさんをセリに掛けたいようです。
目玉商品が1つ有れば、他の『商品』の売れ行きも良くなるのは市場の理ですし。
彼は『元貴族のご令嬢ですので特別扱いですよ』と言って、黄金の鎖まで用意してました」
ヒールは肩を竦めた。
●傭兵貴族
彼を知り己を知らば百戦危うからず。
しかし、ギルドに集まった情報は、どれもこれもバルディエの胡乱な噂。
さっぱりと実像が見えてこない。
「あたしも聞き込み遣ってみたんだよ。もう滅茶苦茶言われてるんだよね。
あれは相当恨みを買っているんだね。だけど彼をどんなに悪く言う人も、武功と武勇、
そして狡猾なまでの戦上手。と言うことだけは認めていたんだよね。
吟遊詩人がこんな詩を遣ってたよ」
ガレットはメモを読み上げる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
玄き鎧に闇マント、盾の徴は紅コウモリ、傭兵貴族の名を知るや。
世に、騎士ピエールのクレイモアは響けども、バルディエの剣を見し者は有らじ。
血の朱・火の赫・夕映えの紅、
無頼の兵引き連れて、バルディエが馬、翔け行かば
海を分けたるモーセの如く、陣を貫き人無き途を、世にも猛き獣が通る。
ゴグの勢が避くるとて、君よ嘲うこと勿れ。
バルディエこそは死の使い。見えない剣が敵を裂く。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「悪評には、一代で名を為した者に対するやっかみもあるのか?」
アレクシアスの考えにヒールは、
「それもあるかも知れませんね。ただ、目的のためには手段を選ばぬ人とも聞きます」
と話を承ける。
そう言う人物だからこそ、名を為したと言うべきか? あるいは、彼の敵のせいなのか?
それで居て、噂では彼も然るべき家柄の裔だとも言う。
「只の傭兵戦士としては学が有りすぎます。これは彼が創ったとされる詩です」
ヒールはメモを読み上げた。
――――――――――――――――――
我が祖の威名 久しく熟聞す
刀槍千隊 三軍を払う
雲蒸霧変 何れの日にか知らん
誓う 微躯を以て勲を画策す
――――――――――――――――――
音律整った四行詩であった。




