チャンピオン-7
●ブロンズライセンス
「ふえ。今のは見えませんでした」
まだ経験の浅い戦士であるリュック・デュナンは目をパチクリ。
的の大人の腕ほどもある丸木が切断されていた。
「居合いと言う術です。アレクシアスさんには使う前に見抜かれちゃいましたが、
鞘に収めた剣を抜きながら斬りつけるんです」
僕の説明に、
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最初の一撃に限っては、完全な不意打ちになるな。鞘の中では間合いも判らない。
特に先に剣を抜き斬りつけた瞬間に使われたら、俺でも危ういぞ。
その歳でよくぞここまで研いたものだ。
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アレクシアスはその速さを誉める。
「その腕に巻いてる釘みたいなのは、ダークの一種だね」
ガレットが興味深そうに見る。
「はい。刃止めの護りとしても着けていますが、護身用の投げつける武器です。
ウサギや小鳥を狩る時に重宝しますよ」
これも指定された的に打って腕前を見せた。2本の手裏剣が深々と的の真ん中に突き刺さる。
的の横で見ていたシャルロッテは、
「恐ろしく避け難い物ですね。私なら、盾を構えていないと受けれ無いでしょう」
同じモーションで速さの違う投げ分けをして見たのが判ったようだ。
「他にもありますが、狩りや護身にしか使えません。ここらへんでいいですか?」
威力は落ちるが、腕の動きと反対に打つ術などもある。
例えば振り下ろす動作をする時、腕は一瞬逆方向に動く。その時に打つと言う術だ。
僕が腕を見せ終わると、ガレットが言った。
「これで決まりだね」
「異存ない」「まあいいだろ」「右に同じ」「指定依頼の単独行動禁止条件付ならいいぜ」
見物人から肯定か、否定はしない答えが返る。
「と、言うわけで、スレナスさんの認定完了だよ」
ガレットから、片面に凝った意匠が施された金色に輝く金属板を渡され、
「はい。ここに数字と筆記体のアルファベットを順に書いて、最後に自分のサインをして」
鉄の鉛筆のようなものを渡された。金属の板には紐を通す穴があった。
「えーとこれ何?」
質問する僕に、アレクシアスは苦笑しながら、
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勧誘する積りは無かったんだが、スレナスは皆に気に入られたな。
そいつは冒険者ライセンスだ。青銅製の身分証明書になる。
これを見せればどの街の冒険者ギルドにだって出入できる。
裏には松脂が塗ってある。鉄のペンでしっかりと書いてから硝酸を掛けて
持ち主の筆跡を留める仕組みだ。
冒険者ギルドは何でも屋だ。
例えば、寂しい老人の話し相手とかウサギ肉の調達とか、子供が出来る依頼も結構あるぞ。
受けたい依頼を回すかどうかは、係りの者が判断する。
手に余ると判断された依頼は受けれないから安心していい。
他に聞きたいことは?
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今何が起こったかを説明した。
「普通はもっと厳密な試験とかしませんか? そもそも志願者だけと聞いてますが」
「冒険者ライセンスは、依頼を受ける権利だ。権利は行使しない権利も含んでいる」
つまり、僕に関して言えば、メンバーに気に入られたから、いつでも遊びに来ていいよ。
と言う通行証のようなものなのだろう。
「スレナスいいなぁ」
ルリが羨ましそうな目で見ている。
鋳造したばかりの真新しい青銅のライセンスは、黄金の様に輝いていた。




