転生-1
●転生
星が一つ流れた。
普通は直ぐ消える光が、長く尾を引いて30を数える。
星空の下、僕は生死を彷徨っていた。
暗い闇の中。締め付けられる体。足りない酸素。
苦しい息の中。僕は聞いた。
「亮ちゃん! しっかり!」
誰かが名前を呼んでいる。
「フィアナ。頑張れ!」
その声に別の声が重なる。次第に最初の声は遠くなり、後の声が大きくなって行く。
そして、僕は突然光の中へ。
「フィアナ。でかした! 跡継ぎだ!」
僕は高々と掲げられ、風の中へ。
「俺の血の血、肉の肉。我が背を踏みて越え行く者。ああ主よ! 正に神託の通りだ」
何が起こっているのか僕には解らなかった。
七つの眠りの度に朝が来る。
暗く、暗く、明るく、眩しく。そして明るく、赤く、暗く。
凡そそんな日々が続く。
いつの頃からか、明るいか眩しい事が増え、その頃になるとだいたい事態が掴めて来た。
体が赤ん坊になって居る事に。どうやら、生まれ変わりと言う奴らしい。
そして、スレナスと名づけられた事と、自分が乳母を使う家に生まれて来た事を知った。
●えっちな若様
「さぁ。新しいご主人様だ」
「いやいやぁ! むぐっ…」
猿轡を咬まされ、口が塞がれ、舘の中へ引っ張られる。
こないだの5つの誕生日。街で迷子になった私は、縛り上げられ荷馬車で運ばれ、
ここまで連れて来られた。
「おい。チビ。大人しくするならいましめを解いてやる」
私を買った男はそう言った。
こくこく頷くと、
「なあに、出来ない事はさせない。お前は『若様』の傍で寝て、お下の世話をするだけだ」
それって、運ばれる時一緒だったお姉さん達が言ってたあれ?
私、もうお嫁さんに為れなく成っちゃうの?
縄と猿轡を外された途端、私は精一杯抗ってみたが、相手は山のような大男。
噛んでも蹴飛ばしても平気の平左。忽ち肩に担ぎ上げられた。
「いやぁ! ルリ、おっぱい吸ったりえっちな事する若様の、お下の世話なんて真っ平よ」
大声にわらわらと集まって来る使用人達。そして
「随分と嫌われたようだな。ジャン」
足をバタつかせ喚く私の声を聞きつけ、髭を生やした洒落者のおじさん登場。
「隊長。娘が酷く暴れまして」
隊長さんは私の顔を覗きこみ、
「ほう。なかなか綺麗なお嬢さんだ。とても奴隷とは思えん。
小さいのどこと無く高貴な感じもするな。ジャン。さっさと連れて行け」
「いやぁ! ちっちゃい子をおもちゃにするような、えっちな若様なんて、ルリは嫌よ!」
「はははは!」
突然隊長さんは笑い出した。
「ルリか。可愛い名前だ。しかしおませな子だな。そんなことまで知っているのか。
ルリや。嫌がるのは『えっちな若様』を見てからでも遅く有るまい」
何事かと駆けつけた使用人達も、皆くすくすと笑っている。
「タンゴ! スレナスは起きている時間だな。連れて来い」
「はい。お殿様」
一礼して出て行った猫族の女性は、程なく赤ちゃんを抱いて戻って来た。
「ルリ。この子がお前の主人。お前の言う『えっちな若様』だ。
確かにまだおっぱいを吸う事しか頭に無いだろうがな」
首が据わったばかりの赤ちゃんが、水晶の様に澄んだ目で私を見つめていた。