表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スレナス物語(アンスロポスシリーズ)  作者: 緒方 敬
第02章 王都参内
11/102

王都参内-3

●狩り

 右、45度。草叢から飛び出す影。

「貰った!」

 打った手裏剣が吸い込まれ、目から脳を貫かれた野兎が着地失敗。

 珍しくキィキィと啼きながらもがいている所を近づいて止め。

 回収した手裏剣は血を拭って腕巻きに戻す。

 獲物は鶉3羽に雀2羽。そして野兎が2羽。

「これくらいでいいか」

 この世界には遊びが少ない。練習も兼ねて手裏剣で狩りをしていたら、

 自然と上がって来た腕前だ。

 威力は前世程ではないが、コントロールと予測打ちは我ながら満足の域。


 獲物をひっ下げて揚々と帰還。と言っても、狩場は駅からほんの100m。

 ミルテの目の届く範囲で遊んでいたのだ。

「若様。何をしておいでと思ってましたら、これでございますか…」

 僕がまだ暖かい獲物を突き出すと、額に手を当てて溜め息をついている。

「大丈夫。服に血を着けて無いから」

「いいえ。そう言う問題ではございません」

 心なしか声に力が無い。何を言いたいのか空気は読めるが、ここはわざと気付かない振り。

 判ってる。こう言う遊びはミルテが嫌がることを。

「こりゃまた大猟ですなぁ」

 馬の世話をしていたジャンが遣って来て、大げさに驚く。

「ジャンの腕前には敵わないよ。あ、これ血抜きして」

 自分でも捌けるが、ジャンに獲物を渡しながらルリの方を見ると、

 さっきよりも旅芸人の子と打ち解けていた。

 歳が近いせいだろう。男の子と話す雰囲気がいい。

「スレナス~!」

 手を上げてルリが呼ぶ。あ、男の子が固まった。そりゃそうだよな。普通の感覚じゃ。

 僕はミルテの方を見る。

「もう。お好きになさってくださいまし」

 乳母の許可が下りた。


●噂話

 変わった若様だ。旅芸人の子供と友達の様に話しなさる。

「ねー。おじいさん。名前は?」

 わしにまで話し掛けて来る。

「ロマンと申します。若様」

 最初は他愛も無い質問だったが、答えて行くと、少しづつ大人の話題も混ざって来た。

「それじゃ、ボナリー伯のとこは、足の数で入城税を取ってるの」

「はい。人なら銅貨2枚。鶏なら銅貨2枚。犬なら銅貨4枚。馬なら銀貨4枚になります」

 また、わしからビューロー男爵領の関所の話をすると

「ビューロー男爵はバカなの? そんなことしてると商人来なくなるよ」

 確かに、遠回りでも他領を通るようになるだろう。

 現にわしも二度とあそこは通るまいと心に誓ったばかりだ。

 若様が熱心に尋ねるので、わしもカミオ男爵やウィートン子爵の噂話を話して差し上げた。

 つい、この場の弾みで、好色なグスマン男爵の話をした所で、

「こほん!」

 乳母殿が咳払い。

 しまった。子供に話すことではなかったなと、わしは口をつぐんだ。


「ね。これギター? 触っていい?」

 話題を変えた若様は、にこりと微笑んでギターをご覧になる。

 商売道具だが若様相手では断り難いので、

「どうぞ」

 と一言言うと、慣れた手つきで音を合わせ、見事な演奏を始めたでは無いか。

 聞いた事も無い曲だが、なかなかの腕前。ギーやカレンより良い腕だ。


●出来心

「若様。おいらより上手です」

「ね。でしょ? でしょ? ギー」

 驚く男の子に、自慢するルリ。ギーとは男の子の名前らしい。

 僕の知ってるギターとは少し違うが、これなら演奏法は変わらない。

「スレナス。あれ、聞かせてあげて」

 ルリはねだる。あれは5歳の僕が言うのもなんだが、若気の至り。

 そう3歳を過ぎた頃だった。お休みの時、ミルテやルリの子守唄やお話に飽きた僕が、

「つまんない。こんなお話できないの?」

 と、『みにくいアヒルの子』とか『人魚姫』とか童話のいくつか聞かせてやったら

 ミルテやルリが目を輝かせて、逆に僕にせがむようになってしまった。

「ま、いいか」

 僕はこのままギターを借り、昔テレビで見た『パンを踏んだ娘』を弾き語り。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 神様のお恵みのパンを、お気に入りの靴を汚さぬために踏んだインゲル。

 地獄での苦しみ。だけどもこの話を伝え聞いた病気の女の子が、

 死ぬ間際に自分の魂の救済よりもインゲルの救いを求めて祈ったため、

 小鳥になって解放ときはなたれる。

 見つけたパン屑に仲間を誘い、自分は口にしない小鳥がいる。

 それは小鳥になったインゲルの姿。

 彼女は仲間に食べさせたパンの欠片が、自分が踏んだパンの重さになった時、

 罪を赦されるのだと言う。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ハラハラしたり、ドキドキしたり、ワクワクしたり、子供って素直で可愛いな。

 いや、今の僕は子供なんだけどさ。って、ジャンに親父。あんたらまで泣くなよ。

 返礼に見せてくれたギー達の芸。焼きあがったウサギの肉を分け、塩を掛けてかぶりつく。

 この頃にはもう。身分がどうのと言う空気では無くなっていた。


 やがて出発の時。彼らも王都に行くのだと言う。

「一緒だと安全だよ。一緒に行かない?」

 僕の提案にミルテは苦い顔をして、

「若様。そう言う訳には…」

 座長さんは当然の様に辞退したが、

「うちの馬車に乗って行け。代価は芸と息子の遊び相手で払って貰おう」

 ギー達を気に入った親父が命じて決定。

 こうして、退屈だった道中は、結構愉快なものになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ