#8 決戦!巨大マリオネット
次の部屋に入ると、床は大きなマシュマロが並んだつくりになっていた。トランポリンのような大きさの巨大マシュマロ。縦に四つ、横にも四つ並んでいる。喜んで食べたいところだけど、今はそうはいかない。
「なんだ。マシュマロの床、ほんとにあるんだ。」
グレーテルが、「あるのよーん。」と、おどけた。
「次に倒してもらうのは……こちら〜!」
ヘンゼルの声とともに、遠くの天井から、糸で吊り下げられた巨大なマネキンが降りてきた。大きさは、二階建ての家くらい。
泥で汚れたシャツに、茶色くてすそがボロボロのズボンを履いている。
───この家の敵は、どうしてこう不気味なんだろ?
瑠璃は顔をしかめた。
「こちら、名前は『パパパパパペット』!」
ヘンゼルが紹介すると、また連打されるゴング。
「わるーい父親をたおしてね〜!」
「たおされちゃ困るわ、がんばって作ったんだも〜ん。」
「でも、たおさなきゃここでゲームオーバーだも〜ん。」
───悪い父親?
瑠璃は、「ヘンゼルとグレーテル」の絵本を思い出す。たしか、継母がそそのかしたせいで、ヘンゼルとグレーテルは捨てられてしまったんじゃなかったっけ?
「それじゃ、試合開始〜!」
カーン!
ゴングの音と同時に、マネキンが海老反りになり、あやしい緑色の光を放った。
さっきの魔女ロボットとちがい、瑠璃の体というより、足元を狙っている。
隣のマシュマロにジャンプでよける。光が当たると、元いた場所のマシュマロがジュワッと溶けていくのがわかった。
床の下は、真っ暗だ。何も見えない。
真っ暗な空間から、冷たい風がふいてくる。風の音は、今の瑠璃には叫び声みたいに聞こえた。
───今度こそ、落ちたらただではすまない、かも……
そう思うと足元が冷えていくのがわかる。早々にたおさなければ、瑠璃の命の方が先になくなってしまうだろう。
マネキンが光をためている間に、
「“ゼステア”!炎よ!」
炎がうねりながらマネキンを攻撃する。しかし、マネキンには傷ひとつついていない。
「どうして!?───“ゼステア”!」
瑠璃はもう一度試したが、結果はさっきと同じだ。
炎の威力は最大。それなのに、マネキンは微動だにしない。
[トウサンニ……]
「なに?」
瑠璃は、眉をひそめて巨大マネキンを見上げた。今なにか、声が聞こえたような気がする。
[トウサンニ……サカラウナ!]
チュンッ!
音がして、瑠璃の足元がまたねらわれた。隣のマシュマロにダイブする。
「ま、また喋る敵だ……」
喋る敵を攻撃するのは、人間を傷つけてるみたいで、少し抵抗がある。
でも、と、瑠璃はマネキンを見る。どう見ても、ふつうのマネキンを大きくしただけ。人じゃない。
───倒さなければ進めないんだ。
瑠璃は、次の攻撃に考えをめぐらせた。
───きっと、体には、攻撃がきかないんだ。
残っているマシュマロは、あと十四。最後の一個を除けば、あと十三回しか攻撃を受けられないということになる。
瑠璃は、マネキンをじっくりと眺めた。そして、わかった。───糸だ!
「あの糸をねらってみよう。」
天井は、とても遠いところにあって、瑠璃にはよく見えない。そこから伸びた糸は、マネキンの両肩、両手、そして両足にくっついている。
瑠璃は、まずは一番近い足からねらうことにした。
「“ゼステア”!」
炎は右足の糸、左足の糸を順番に焼き切る。吊られていた足が、ぶらりと垂れ下がった。
「よしっ。」
瑠璃は思ったより上手くいって、ガッツポーズ。
だが、マネキンの方も光を貯め終えると、容赦なく瑠璃の足元に撃ち込んでくる。
[サカラウナ!サカラウナ!]
瑠璃は斜め前のマシュマロににげた。後ろでマシュマロがとけ、甘いにおいがただよう。
───このにおいに、だまされちゃダメ。
「“ゼステア”!」
続けざまに呪文を唱える。今度は、手につけられた糸をねらう。
右手、右足。炎は回転しながら、マネキンに襲いかかった。クリアだ。
すぐさま、次の攻撃が飛んでくる。
[ワルイコ!オシオキ!]
攻撃の間隔が狭まっていることに、瑠璃は気付いた。しかも今度は、ふたつのマシュマロに同時に攻撃が飛んできた。残っているマシュマロは、あと十一個。つまり実質、十個だ。
もしこの二連続攻撃が続くなら、あと五回しか、攻撃を受けられない。
「早くしないと、マシュマロがなくなる!」
残っているのは両肩だけど、高い場所にあり、ねらうのが難しい。
「ゼステア!」
瑠璃は炎を放ったが、やはり距離が遠く、上手く当たらなかった。その間に、人形は次の光をためている。それも三個同時に。
───にげる場所を間違えば、それでもうゲームオーバーってこと……!?
「“ゼステア”!炎よ!」
力を振り絞って、呪文をとなえる。
───行け、行け!
瑠璃は願いながら、蛇のようにマネキンにせまる炎を見つめた。
遠くのほうで、煙があがる。少し遅れて、マネキンががくりとバランスをくずした。右肩の糸が焼けたのだ。
「やった!」
[オシオキダ!]
瑠璃は喜んだが、マネキンの方も黙っていない。瑠璃の足元とその両脇に、光が撃ち込まれた。
───飛ばなきゃ!
瑠璃は前方のマシュマロめがけて飛んだ。でも、微妙に距離が足りない。
「ぐっ……」
ぎりぎり、マシュマロの端の方をつかみ、何とか奈落に落ちることはまぬがれた。でも、体はほとんど宙ぶらりんだ。
瑠璃のすぐ後ろで、ジュウと音がした。あと数秒遅かったらと思うと、ぞっとする。
人形はすでに次の光をためていた。攻撃の間隔は早まっている。瑠璃の細い腕で身体を引き上げようとしたら、どう考えても間に合わない。
瑠璃は右手に握った杖を、さらに強く、ぎゅっとにぎる。手の平いっぱいに汗をかいているのがわかる。
「“ゼステア”───!」
絞り出すように、全身の力をこめて呪文をとなえる。
───届いて!
瑠璃は心で祈った。
大きな炎は、今までよりずっと速いスピードで、人形の左肩めがけて突進した。
[オシオキ───]
ジュワッ!
糸が焼けた音が、小さく聞こえる。
ブチン!
ついに左肩の糸が切れた。支えを失った人形は、うなだれたような格好になり、そのまま落下していく。人形はもう、何も言わない。ためていた光も、いつの間にか消えている。
ズボッ!と音がして、マネキンがマシュマロをごと、落ちていくのが目の前にみえる。強い風が吹いて、瑠璃の髪やスカートはめくれ上がった。
瑠璃は、マシュマロに足を引っかけて上る。何とか、地上にたどりついた。
「おめでとー。」
「おめでとー。」
また、無機質な拍手。瑠璃はぜえぜえ息を切らしながらきいていた。
「パパパパパペットを倒すとは、お主、なかなかやるな。」
時代劇みたいな口調でおどけるヘンゼル。
「優等生ねー。つまんなーい。」
グレーテルに言われて、瑠璃はカチンときた。
「勝ったんだからいいでしょ!」
「まっ、なんて乱暴なのかしら〜。」
「次の部屋で、おしおきだねー。」
次の扉が開く。瑠璃は残ったマシュマロでできた道をたどって、出口の前に立った。
「次で、さいごだよー。」
「がんばってねえ〜。」
また、気の抜けた声がして、扉が開く。
───次で最後!
瑠璃は残ったマシュマロでできた道を進んだ。




