第6話 静かな距離
円居さんからのメッセージが、減った。
前は、朝起きた瞬間から寝る直前まで、
スマホが鳴らない時間の方が少なかったのに。
今は、一日一通あるかどうか。
それが、逆に怖かった。
『おはよう、今日は寒いね』
質問も、絵文字も、感嘆符もない。
俺は、返していない。
既読もつけていない。
なのに、次の日も、同じ時間に届く。
(……俺が読んでる前提、だよな)
そう思った瞬間、背中にじわりと汗が浮いた。
朝の待ち伏せは、変わらない。
でも、彼女は静かだった。
隣に立つ。
同じ方向を見る。
でも、話しかけてこない。
前なら、無理やり会話を繋げてきたのに。
「最近、ショウくん元気なくて……」
「無理させてないか、心配で」
そんな声が、どこからともなく聞こえる。
クラスメイトも、先生も、
円居さんを見る目は“健気な彼女”そのものだった。
俺が距離を取れば取るほど、
俺の方が冷たい人間みたいになる。
昼休み、隣の席に座られても、何も言えなかった。
「来年も、同じクラスだといいね」
何気ない一言に、心臓が跳ねた。
「進路も、近いところにしようかなって思ってるんだ」
――冗談じゃない。
「…困る」
ひりつく喉を必死に動かして絞り出すように言った一言に
一瞬。
円居さんの目から、感情が消えた。
怒りでも、悲しみでもない。
ただ、「理解できない」という顔。
ゾワッと背筋が粟立つ。
「…ふふ、冗談だよ」
円居さんはすぐに、笑顔に戻る。
「そんなに真に受けなくていいのに」
周りが囃し立てて笑って、空気が戻る。
俺だけが、息をするのを忘れていた。
放課後、家に帰りカーテンを閉めようとして
手が…止まる…
下に…いない…
いつも見上げてくるはずの場所に、
円居さんの姿がなかった。
スマホも、鳴らない。
不気味すぎて、震える手でカーテンを引いた。
それから、違和感が増えた。
玄関にアイロンされたハンカチ。
鍵は今、開けたばかり。
勉強机に置かれた知らないシャーペン。
たしかに、俺が良く使うメーカー。
空になったゴミ箱。
――入られてる!?
夜、アキラさんの家に避難していた。
普通に飯を食って、普通に笑って。
その時間だけは、ちゃんと呼吸ができた。
食後、家の話をすると、
アキラさんは表情を変えた。
「合鍵だな」
「…え?」
「決して荒らしはしない、でも痕跡は残して隠す気はない。」
机を指で叩く。
「ここにいると主張してる」
喉が鳴った。
「…鍵、触らせた覚えは?」
「え?そんなこと…」
ある訳と考えて――思い出した。
『もう、ショウくんったら! 鍵、落としてたよ?』
危ないなぁ、と嬉しそうに笑いながら手渡された事がある。
「…すぐに返してもらったはず」
「複製は、一分あれば足りる」
頭が、真っ白になった。
翌日の昼間。
休みなのに、いつもの場所に円居さんはいなかった。
家に入った瞬間、スマホが鳴る。
円居さんからのメッセージ。
『おかえり』
たった一言。
(…もう、隠れてる段階じゃない)




