第5話 静かな違和感
朝、登校する時間に合わせて駐車場まで送ってもらった。
車を降りる時
「いってらっしゃい」
そう言われただけで、胸の奥がじんわり温かくなる。
「いってきます!」
手を振って、マンションに一度入り、エントランスを抜けた。
――その瞬間。
「おはよう、ショウくん」
円居さんは、いつもの位置に立っていた。
でも、今日は少しだけ様子が違う。
距離が近いのに、触れてこない。
声も、妙に落ち着いている。
「…お、おはよぅ…?」
返事をすると、彼女はふっと笑った。
「無理に話さなくていいよ。今日は眠そうだもんね」
――優しい。
その優しさが、怖い。
「アレ? シャンプー変えた?」
鼻をひくりと動かされて、ぞわりと背中が粟立つ。
「は?」
「匂い、違うなって思って」
なんで、分かるんだよ。
足を速めると、円居さんは同じ速度で横に並んだ。
「なんかいい事あった?」
「今日は顔色いいね」
お前がいなきゃ!
喉まで出かかった言葉を飲み込む。
「ねえ、これ」
差し出されたのは、小さな布のマスコット。
「新しいの作ってきたんだ。後で付けていい?」
――GPS入りか?
頭をよぎった瞬間、背筋が冷えた。
「…いらない」
「そっか。じゃあ、また今度ね」
泣き真似も悲しげな顔もせず、引き下がった。
それが、余計に不気味だった。
学校でも、彼女は静かだった。
一方的に話しかけてこない。
おかしい…変だ…怖い…
ただ、視線だけが絡みついてくる
放課後。
一日が、酷く長く感じた。
家に帰ると、どっと疲れが出た。
カーテンを閉めようとして、手が止まる。
――下に、いる。
円居さんが、俺の部屋を見上げていた。
動かない。
スマホも見ていない。
ただ、こちらを見てる。
震える手でカーテンを引いた。
スマホが震える。
『おやすみ』
ただの挨拶が、怖くてたまらなかった。




