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タルトタタン

久々の休みは、日頃出掛けないのになぜか出掛けたくなった。

鬼丸の部屋はかなり綺麗になってきたが…カビとか排水口自体が臭いのでパイプ洗剤ではどうしょうもない。中目黒にあるドンキ本社にパイプ用のブラシを買いに来た。

ここまで目黒川を桜並木越しに歩いてくると観光客も減り、自分だけのお気に入りのお店とか探しやすくなる。

あまりに汚い部屋で精神的閉塞感に襲われたのか?

目黒川沿いの小さなカフェで深呼吸した。

マンションの1室を改装してベランダをカフェにしてる。本当の隠れカフェだ。

マンション入り口の変な立て看に誘われるままマンション階段を5階まで登ってしまった。

扉を開けると「いらっしゃいませ」と声がしたが…人は誰もいない。

すこし迷ったがベランダの席に座った。

店のカウンターの暗闇から男性が白く浮かび上がる。

「ヒッ!」と一瞬おびえたが、存在感が薄かっただけかもしれない。見逃していたのかも?

メニュー表とお(ひや)をテーブルを置きながら白い人が微笑む。

「良くこのカフェ見つけましたね。」鈴のような綺麗な声!

色素の薄い長いウエーブ髪を無造作にクリップで留めた白シャツに黒のエプロンの本当に綺麗な男性だった。

「ドンキまで用事があったので久々来ました。ココまで来ると静かですね〜と言うか、このお店前から有りましたか?」中目黒じゅう歩いてる自信あるが、ココに店があった記憶がない。

「ヒドイですね〜2年前からありますよ。

でも不定期なんです。ケーキが上手く焼けた日だけやってるもので。

インスタグラムで営業日やケーキの種類とかはアップしてます。」と壁のコードを指差した。

携帯で写メってフォローしておいた。

カウンター横のショーケースに並ぶケーキを見に行く。

「あっ、タルトタタンがある!大好きなんです〜これにします。」と注文する。

「知ってますか?アップサイドダウンケーキとも呼ばれるんですよ。コレ」鈴のような綺麗な声で綺麗なお兄さんが話す。

「あ〜〜〜っ、逆さまケーキって意味ですよね?その呼び方苦手なんですよね〜

昔読んだ読み切りマンガ思い出しちゃう!」とブラックコーヒーを飲みながら眉間にシワを寄せる。

「オッ、マンガ好きですか?僕もかなり読みますよ。」お兄さんが食いつく。

「えっ、でもどうせジャンプとかマガジンでしょ?」ヲタは派閥に拘る。

「いえいえ、姉がいたからオールジャンルですね。

ア〜ッ、でもさすがに恋愛マンガは全然読まないかも?どちらかと言えば…ホラー系かな?」お兄さんは潤を見透かすように話す。

「エッ、じゃあアップサイドダウンケーキってマンガ読んだことあります?」わざわざタルトタタンをその呼び名で呼ぶと言う事は!にわかに潤の目が輝く。

「分かりますよ〜オーブン開けたら…ですよね?」綺麗なお兄さんがクスクス笑う。

「そうです!浮気した彼氏の頭が逆さまに入ってる話!」潤がうれしくて飛び跳ねる。

思わずお兄さんの両手を引き寄せて固く握った。

「タルトタタン見る度、その絵を想像しながら食べちゃうんですよ〜♪

このりんごのグチュグチュが逆さま頭の切り口にどうしても見えて〜」と言いながらりんごを潰してすくって食べる。

「すごい!美味しい〜!りんごのキャラメリゼが完璧ですね?」思わず潤は親指を立てる。

「そうなんです!焼きすぎたら苦みが出るし甘みの完熟だけを際立たせるのが難しいんです。

今日はうまく焼けたのでお店を開いたのです。」奥からお兄さんが洗い物しながらは微笑む。

「いいお店見つけました!ありがとう。」ドロドロのりんごを食べながらブラックコーヒーを飲んだ。

「今日は素敵な日だわ…」潤は満足した。

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