下町と山の手
「あのオーナーが亡くなって得するのは誰なのかな?」事務所に戻って潤の淹れたコーヒーを飲みながら鬼丸は考える。
「兄妹とかは?」潤が聞く。
「ちゃんと今夜聞くけど、確か妹が居たはず。
でも遠いんだよ、嫁入り先が。
だから相続の時も兄一任って感じだったはず。
ウチと同じで古いから建て替えろとかそろそろ五月蝿くなる頃かなあ〜他人事じゃないよ〜」鬼丸が頭を抱える。
「そう言えば鬼丸は兄弟は?」潤は聞いたことないと気付いた。
「姉貴が居るよ〜めちゃ怖いけど。柔道始めたのも姉貴のせいだし。」鬼丸が憂鬱そうな顔をする。
「エッ、スゴいじゃん!お姉さんは警察入らなかったの?」潤が聞く。
「姉貴は柔道とか茶道と華道習ってたかな?茶道だけは今も続けてるよ。実家をビルに建て替えて茶道教室開いてるよ。
父が元気な内はお茶と海苔の問屋してたけどね〜需要もないし畳んだよ。
祖母が祖父が亡くなるとすぐに息子に商い任せて自分の実家建て替えて、こっちに引っ越したからね。」江戸っ子の明治から大正昭和の変遷を見るようだ。
「お祖母ちゃん、旦那さんの家に馴染めなかったのかなあ?面白い!」潤が面白がる。
「品川はチャキチャキの江戸っ子気風だから、武家の多かった目黒育ちのお祖母ちゃんは馴染めなかったの容易に分かるよ。そういうの聞くとリアルだわ〜」潤がキラキラした目で話すと、
「そうなのか!お祖母ちゃんに聞いても言葉濁してたけど、それで婚家が嫌で1人でこっちに戻ったのか!
すげ〜潤さん、良く分かるね〜」鬼丸が驚く。
「じゃあ、ご両親はお姉さんとサザエさん家状態なのね。それで、こっちは鬼丸さんに任されたんだ。」潤が聞く。
「そう、お祖母ちゃんが抜けたから母もすぐ商いの手伝い駆り出されたから忙しくてね〜
中目黒のお祖母ちゃん家に介護で来れないし、姉は子育て忙しいし、俺がこっちに住み込みで看取ったの。
と言ってもトイレ1人で行けなくなったら、お祖母ちゃんが大急ぎで施設入ったよ。嫌だったみたい。
品川の家で介護地獄味わったらしくて。
お嫁さんイジメたくないし、孫に介護もさせたくないし。」鬼丸が話す。
「お祖母ちゃん、立派な人だね〜
普通は自分が苦労したからお嫁さんも耐えるべき!とか言う人いるじゃん。」潤が感心すると鬼丸が照れる。
「酒飲んで赤ちょうちんをフラフラしてた祖母だけど、確かにサッパリした良い祖母ちゃんだったよ。
両親も早くに亡くなり、親代わりしてた兄も昔のスペイン風邪で一家全滅したんだよ、この地で。
後ろ盾ない祖母は、ご飯も1人土間で食べてたって。
家族の給仕がすぐ出来るように。
人の息交う船着き場の茶店兼旅館だったからね〜
それからずっと空き家で荒れ放題だったそうだよ。」鬼丸も祖母の話を思い出して懐かしさに浸る。




