水害
「さあ、これで離婚調停はバッチリだと思うよ!」と
また弁護士の友人へ調査書類を送った。
すっかり陽気になった鬼丸はセッセと仕事を済ます。
ドンキで新しい壁紙も買ってきてカビの生えた壁紙を自分で張り替えている。
掃除よりはこういう事の方が得意らしい。
「途中でチラシ配ってたよ〜山手通り沿いのビル、確かコンビニだったビルかなあ〜?
今度4階くらいまで全部お店になるんだって!」とチラシを渡された。
「確かオフィスビルじゃなかった?」潤が思い出して答える。
「うん、確か下の階はグルメログって日本のミシュランみたいな会社入ってたけど、この頃は検索会社も似たようなのが出来て勢い失くしてからね〜撤退するみたいだよ。
「そうか。人の店を勝手に評価して稼いでただけだもんね〜」潤もうなづく。
「ビルオーナー会社は、もっと上の階だけど〜その評価会社の空きスペースをフードコートの縦型にするみたいですよ。」と鬼丸がチラシを見せてくれた。
「良いですね!人によって食べたいのがバラバラでもワイワイできて。」真ん中がスロープで客席となり周りを店が囲む形だ。フードコートの立体型だ。
「運ぶのは客自身で店側は作る人だけで人員すむから助かるよね、確かに。
飲み放題チケットがコインでそれで自分で好きなお酒やジュースやお茶を注げるんですね。画期的ですね〜」とチラシを見せてもらう。
それもお酒とジュース類のコインは色違いで値段が違う。
「飲めない人が割り負けしないようになってるし、オーダーが個人だからお金トラブル無さそうで良いですね。」
人件費が安く済むせいで値段が有名レストランなのに2割安になっている。
「中目黒は若い人がワイワイする店も多いから、ココも流行りそうですね〜親会社はどこですか?」と言いながらチラシの隅まで見るとワールドダイニングの文字が。
「あっ、この間の包丁振り回してた人が住んでた独身寮の会社だ!って事は、あのビルオーナーがワールドダイニングなんですね!」潤は本社が近い事に驚く。
「警察だって署の上が独身寮じゃん。効率的じゃない?」と鬼丸がカビの生えた壁紙を綺麗に張り替えて満足げに言う。
「そうかあ〜確かドンキも下が店で上が東京本社だもんね。」と潤がうなづく。
中目黒は飲食業の本社が良くある。
「ここら辺りって…スゴい昔ですけど水害多発地帯だったんですよ。目黒川は暴れ川だったので。」の潤が解説する。
「おばあちゃんが言ってたよ!ビル建てる時、地下室を作ろうと建築会社がするから怒ったって!
だから貯水槽もエレベーターの機械も全部うちは屋上なんだよ。
おばあちゃんの子供の時は、いつも別所坂登って恵比寿の方へ避難してたって言ってた。」そうだった。鬼丸のおばあちゃんの実家の場所なのだ。
「普通の人は絶対住まなかった場所だよね?なんか商いしてたの?」と潤が聞く。
「ここは目黒川の船着き場で荷揚げする場所だったんだ。こっから先は陸路でね。ご先祖様は、船頭や荷車引きの休憩場所の花見茶屋をやってたって聞いたよ。」潤はこういう話が大好きなのだ。ワクワクする。
「あの坂、江戸時代から有名だったんでしょ?テレビでタモリさんも日本で5本の指に入る良い坂だって聞いたよ!
目黒富士の名所で安藤広重が浮世絵にしたって。」
もう潤の目がキラキラしてる。
「う〜ん、でもとにかく水害が多くて…大変だったらしいよ。おかげでもう少し先の目黒雅叙園さんみたいに大きく成れなかったって悔しがってたよ、ばあちゃんは。」鬼丸は一生懸命祖母の話を思い出してくれている。
「うん、この頃もゲリラ豪雨で氾濫してるもんね〜ここら辺。」そうなのだ。今年も夏に氾濫した。
商売をするには適した場所だが、大雨の時は前の目黒川が生き物みたいに荒れくるい夜中に川音で何度も目が覚める時がある。
住んでから気付いた。




