探偵事務所
どうしても目黒川沿いの桜が見えるマンションに住みたいのだ。隣のビルの探偵事務所もその条件にハマってるので応募した。
なんせ看板下に米印でスタッフ募集と書いてた。
人手不足なのだろう。だいたいは浮気調査や盗聴器探しだと聞いてる。仕事とほぼ丸かぶりなので変わらないだろう。
「どうぞ〜」インターホンを押すとジャージ姿の男が出てきた。さすがに驚く。
「すいません。完徹で渋谷のラブホで張ってたもんで。」ボサボサの髪を掻きながら小汚い男が照れる。
風貌からもっとクセ強かと思ったが、率直そうな感じがする。
「敬語?って事は、私より年下ですか?」全く年齢不詳な風貌なのだ。混乱する。
「えーと、エントリーシートの年齢見たら俺より先輩だったもんで。
てか、警察で多分俺アナタと署カブってますよ。」言われてジーーーッとヒゲぼうぼうの奥を見る。
もともと毛が濃いのだろう。大きな瞳と高い鼻、厚い唇でヌボーッとひょろ高い。
確か本部で会ったような…何百人と居るので覚えてないが、食堂でいつも蕎麦ばかり食べてた人に似てる気がする。どの課の人か知らないが。
「えーと、もしかして本部食堂で…」と潤が言うと
「ですよね?食堂でうどんに異常に唐辛子振る恐ろしく味覚異常な先輩ですよね?課は知りませんが。」どんどん記憶がよみがえる。
とにかくうどんの出汁が激甘なのだ。関西人として関東の塩っぱいのも九州の激甘いのも許せないのだ。
なので唐辛子をこれでもかと振っていたら、まるでバケモノを見るような視線を感じた。
目が合うとサッと視線を逸らすが、毎日毎日見られてる気がした。
「一言も話したことはないですよね?」まだ自信がない。だって、こんなに毛むくじゃらじゃなかった。
小ぎれいな角刈りの清潔感あふれる刑事だったような…そうだ!よく彼とご飯食べてた人が所轄で副署長やってて顔見知りだったのだ。
何か特殊な課だった気がするが…思い出せない!
「アナタも警察辞めたんですね。僕も5年前に辞めて探偵始めたんですよ。やあ〜どもども。」確かさっきジャージの中の股間辺りを触ってた手で握手される。
警官だと規則慣例規則の中で個性が見えにくいが、野良になった彼は…汚かった。
マンション奥もデスクとソファがあったが…完全な汚部屋だった。
「どうぞ、適当に座って下さい。」と物をどかされたが…絶対無理!
「いいえ、立ったままで良いですよ〜」と断る。
「元捜査一課機捜隊の鬼丸です。ご無沙汰してます。」そうだ!副署長が本庁で課長してた部門はその名だった。
ずっと機動隊の人でSITを長年やってた人だった。
年が近いしとにかく顔がツボだったので仲良かった。
と言うか一方的仲良くしてた。強面イケメンなのに酒にカラキシ弱くて酔わせてヘロヘロにするのが好きだった。
奥さんと家族を愛してるので必死で理性保とうと頑張ってるのが、またツボ!
愛でて楽しんでたのに本庁に異動してしまった。
本庁で再会した時もなぜか後ろに引かれた。その部下だった男だ!
しかし、潤はこういうタイプは全く趣味じゃないのだ。とにかくダメンズ好きなのだ!
クセ強のたらしでキャバ嬢を情報屋に仕立てて浮気した彼氏を売らせて点数稼いでた黒猫(潤が勝手に呼んでた)が好みなのだ。
潤が長年結婚出来なかった理由はそこだ。
異性の好みが絶望的にアカン人なのだ。




