嬰児殺し
「どうぞ」鬼丸が近くの自販機で買った暖かいコーヒーをくれた。
「ありがとう」まだ混乱気味の潤は落ち着こうと一気飲みする。
「潤さんなら、どうします?
もし、人の手に触れるだけでその人の潜在的な要求を引き出せる力が自分にあったら…」鬼丸が質問する。
「その力が本当なのか?試してみると思います。」潤は答える。
「ですよね。でも、自分の周りでやるのは危険ですよね?どうします?」鬼丸もベンチに座りながら缶コーヒーを飲む。
目の前の芝生広場では保育園の子達が園帽とスモックで走り回っている。
「素性を隠して最適な人物を探します。でも1人だと偶然かもしれない。2回3回と試すかもしれない…って恐いですよ!やめて!」思わず考えて打ち消した。
「今、白蘭はその段階なんですよ。自分の能力を確信したんですよ。
ただ、つまらない探偵達に気付かれてしまった。
まあ、警察だって手出し出来る能力じゃない。誰にも立証できない。」鬼丸の説明を潤がさえぎる。
「自殺させれるのは確証できた。そしたら次ですよね?人を殺せるのか?…ですか?」潤が恐る恐る聞く。
「まあ僕で失敗してるから、大人が大人を襲うのはまだ無理だと分かったでしょう。まだ…ですよ。
トラックで駅前を暴走するとか、いくらでも方法はこれから考えれば良い。」鬼丸が空恐ろしい事を言う。
もし実現してもヤッた人間が裁かれるだけだ。
本人もとうとうやったんだな、俺ってくらいしか。
まさか、誰かに自分が動かされたとは思わない。完全犯罪だ。
「それより、さっき言ってたじゃないですか?
この公園側の窓が塞がれてたと。」鬼丸が前を走っててコケた保育園児を抱き起こす。先生が走って来てお礼を言い子供を連れて去る。
「はい、考えれば裏が菅刈公園なのは分かるんですが
真暗で壁だとばかり思ってました。」潤が説明する。
「それはアナタにこの公園を見せたく無かったからじゃないですか?彼はターゲットを見渡せる場所に潜みます。石碑ごしに見える夜目にまぶしいクラブみたいなマンションが多分彼の潜む赤いバーの2階から見えていたように。」鬼丸が園児達を眺めながら淡々と話す。
黒猫みたいな動物的勘は持ち合わせてないが、鬼丸は一歩一歩確実に盤上で相手を追い込む。
副署長が彼をキャリアも実績もないのに捜査一課機捜隊に選んだのは、ココなのかもしれない。ジワジワと来る感じが恐い。
「やっぱりココも何か昔に事故あるんじゃないですか?彼はそういう場所を好んでますよね?
これも実験かもしれませんが、彼の能力は事件事故があった場所で増幅されるんじゃないですか?」鬼丸が仮定を立てる。
白蘭もきっとそれも試しながら実行してるのだろう。
彼には人の怨念みたいなものが感じられるのかもしれない。または、それが彼の能力の源なのかもしれない。
「ここはあの西郷隆盛の弟西郷従道の屋敷があった場所です。あそこに石碑がありますが、明治天皇が西郷隆盛をしのび、ここへ来た時に立てられた記念碑です。
西南の役で薩摩の下級武士、もと官軍の兵士達側についた西郷隆盛ですが、明治天皇直々に『余の元を離れないで明治政府を創り上げる』事を懇願されてたそうですよ。
でも彼は性質上命を掛けて新しい国造りため戦った官軍兵士達の困窮を見捨てられなかった。」話が長くなりそうで1度も話しを区切る。
「良いですよ。面白いです。」鬼丸が面白がるが、事件に関係ないので切った。
「西郷従道亡き後、屋敷は手放され鬱蒼とした森に還ってしまったんですよ、ココは。
それこそ恋人達の逢引にも使われましたが、婦女強姦なども多発しました。
そして、昭和初期に大量の赤ちゃんの遺体が出てきたんですよ。」潤が説明する。
「昔は妊娠中絶なんてできませんでした。主人がお手伝いさんに産ませた子や不倫の子や、この世に居ては不都合な子供達が沢山産まれていたんですよ。
そして、そんな子供を金で引き受ける仕事も有りました。
それこそ産業廃棄物処理みたいに金で不都合な子供をどこかへ連れて行くんです。」日本の闇の話だ。
今は昭和や明治大正をエモとか言ってるバカな若者がいるが、その闇の歴史を知ったら、今が何千倍も素敵な世界なのが分かるはずだ。




