志向
「いや、絶対好みじゃ無いはず!」家に帰って自分の吐いた言葉に戸惑う。
この年まで独身なのはヲタ魂で生きてきたからだ。
絶対ヤバい男でもドキドキする事が何より大事だったから!トキメキこそ人生の糧!
ただ若い頃は実際そんな男にのめり込んだが…付き合うとトキメキが消えるのだ。
シュ〜ッとシュークリームのシューみたいに。
そこには男尊女卑の頭の固いつまらない男が、潤が作った飯や整えた部屋で我が物顔で暮らすだけ。
彼が投げ捨てた洗濯物を拾い、くつ下を返して伸ばし洗濯機に入れる。
そんな生活が来る日も来る日も続くだけ。
飽き性のヲタなので、トキメキが消えたら、もう無理!
家の鍵を変えて閉め出して終わり。
警察なので潤に交番行かれるのだけは避けたくて、皆素直に引き下がった。
いい年になると、もう好きな男を眺めるだけになった。見てるだけで楽しいのだ。いや、そこまでが恋の花なのだ!
付き合えば、見栄っぱりで女相手に威張るだけのつまらない男になってしまう。
トキメキく男は、仕事に会社行くのにダルくならないためのモチベーションにしかならなくなった。
まさか、あんな汚い人の事…好き?
と考えたが、何か今までの好きとは違うような…ドキドキしないしトキメキもない。
ただ、あの純粋さが…まるで赤ちゃんや犬みたいに愛おしい…ような気がする。
男性に「守りたい」とか言われると「大の大人同士で何を言ってるんだ?こいつは?」と思ってしまったが、今なら分かる!
大の大人だけど、あのままだといつか絶対変な病気で死ぬ!守らないと!
何だか使命感が湧くのだ。
とにかく最低限の人としての衛生観念を!
まるで道端で小汚い捨て猫を拾ったような感覚に近い。命を守りたい!と思うのだ。
翌日、何だか意識してしまってぎこちなかったがオーナーから管理人のスケジュール表が送られていた。
鬼丸の横からパソコンをのぞく。
昨夜はやはりおかしかったのだ。今は顔が当たらないように少し寄ってくれる。
「朝10時から清掃ゴミ出しをして、後は管理室で書類を書いたり住民対応。2時なんですね〜ランチ休憩。
やってる店探すの大変ですね、だいたい2時には閉まるから。
そして、また夜6時に小休憩30分で退勤は残業1時間で9時ですね。
う〜ん、無理のない勤務の感じしますよね〜なんで自殺したくなるんだろ?」鬼丸も潤も良く分からない。
人付き合いや人間関係も無いし、マイペースに働けそうな気がするが…
「3人の年齢履歴分かりますか?」潤が聞く。
「うん、貰ってありますよ。これです。」ザッと目を通す。
「皆さん、定年退職されての再就職なんですね。
結構 錚々(そうそう)たる履歴ですね。あっ、でも会社からの再就職をやめて、こちらに応募してるから何か問題あったのかな?」鬼丸が腕を組んで悩む。
「人間ってピークの時の記憶を背負って勘違いするじゃん?
会社がエラいのに自分がエラいみたいなさ。
警察でも急に定年退職した人って後輩に相手されなくなって凹む人多いじゃん。
刑事でバリバリやってた人が、落とし物の受け付けやらされて凹んでたりするじゃん!」潤のたとえに
「確かに!急に敬礼されてた人が手で会釈されるだけになるもんなあ〜あれはショックですよね、きっと」
鬼丸もうなづく。
「この人達、きっとそれに耐えられなくて元の会社で働くの辞めた人達なんだよ。」潤が指摘する。
「そうかあ〜年を取って自尊心傷つきながら、管理人になったのかあ。
すると、あのマンションでも大丈夫かな?
住民は若い子ばっかりだから…礼儀なんてなってないだろうし。」鬼丸も心配する。
日曜日なので住人の話が聞けるかもしれない。
2人はマンションへ出掛ける。




