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蓋
朝、トーストを目の前にして、私の握ったジャムの瓶の蓋は硬くてなかなか開かなかった。
苦戦する私を見て妻が言った。
「その瓶、オスだったのね」
「…オス?」
「蓋が硬い瓶はオスで軟らかい瓶はメスなのよ」
「…メス?」
「それと、よく見るとオスの瓶の方がラベルだって派手なの。勿論、メスの瓶の気を引く為よ」
『そんなバカな』と言おうとした私は、口をつぐんだ。
朝から妻と言い争いなどしたくはないのだ。
「そうか。オスの瓶は強いんだな」
私はそう言った。
妻は少し考えてから答えた。
「私、オスが強いとかメスが弱いとか、そういう考えは古いと思うの」
私は『こういう朝もたまにはあるさ』と自分に言い聞かせてから言った。
「…それもそうだな」
妻は、そんな私にはお構いなしで、オスの瓶の蓋が開くのを、ニコニコしながら待っていた。




