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窓側へ
出張の帰りに新幹線に乗った。
私は窓側の席だったが、通路側の席には1メートル弱の黄色い球体が座っていた。
『参ったな』
それは、大きなヒノキ花粉だった。
ヒノキ花粉は私に気付き『どうぞ通ってください』とばかりに少しだけ縦長になった。
ヒノキ花粉を悪く言うつもりはないが、私は花粉症なのだ。
接触してしまえば、クシャミと鼻水が止まらなくなるし、目も痒くなる。
そんな事になれば、隣にいるヒノキ花粉も気まずいだろう。
私は少し躊躇したが、つま先立ちになり手刀を切り、そして慎重且つ自然な感じで窓際の席に移動した。
『よし』
私はシートに深く腰掛けてから、ヒノキ花粉に会釈をした。
窓の外を流れるのは山ばかりだった。
そういえば、行きで隣り合ったスギ花粉は、今頃どうしているだろうか。
そんな事を思いながら、私はクシャミをした。
そして缶ビールを開け、二度目のクシャミをした。
きっとスギ花粉も私の噂をしているのだろう。




