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人事部
「人事部のシルク部長、辞めちまったな」
同僚が言った。
シルク部長は絹の様な長い毛をしたマルチーズだった。
元来、犬は人間に序列を付けると考えられていた為、そのマダム受けも相まって、人事部で異例の出世を果たした切れ者だった。
「ああ、寂しいけど犬に人事を任せるというのは、もう古いのかも知れないな」
同僚も私もシルク部長には、若い頃から可愛がってもらったのだ。
「あっ…」
ふと、シルク部長がフローリングを歩く、カチャカチャという爪の音が聴こえた気がして、私達は振り返った。
しかし、そこにシルク部長がいるはずもなく、新たに就任した人間の人事部長が、神経質そうにボールペンをノックしていた。
「…きっと人間の人事部長とも、俺達は上手くやっていけるさ」
そう言って同僚は私の肩を叩いた。
その目は座敷犬の様に潤んでいた。




