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1メートル
温泉に来た。
先客は二人、どちらも60代に見えた。
二人は右端と左端でそれぞれ身体を流している。
私はその間に座り、シャワーの温度を確かめていると、視界の端で右の男が立ち上がった。
男の方に目を向けた。
男は立ち上がったのではなかった。
椅子に座ったまま、頭をガシガシと洗いながら1メートルほど宙に浮いていた。
男から『ホワンホワンホワン』とUFOが浮かんでいる様な音がした。
そして、男はひとしきり頭を洗うとスッと床に降りて、手探りでシャワーを掴んで頭を流し、温泉へ入って行った。
私はもう一人の反応を見ようと左を向いた。
左の男も地上1メートルで洗髪をしていた。
『ホワンホワンホワン』という音もしていた。
今まで気付いていないだけで、私も洗髪中に空中浮遊をしていたのだろうか。
そもそも洗髪とはそういうものなのだろうか。
私は床の泡を念入りに流し、椅子に真っ直ぐ座り直した。
そして、シャンプーを頭に付け、耳を澄ませながら目を閉じた。




