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タクシー
タクシーに乗り込み、行き先を告げたところで気が付いた。
運転手がタコさんウインナーだったのだ。
確か、彼に最後に会ったのは、小学校の運動会の弁当の時だ。
もう三十五年近く前になる。
少し萎びた感じはあるが、合成着色料の赤色や外に跳ねる脚の形には、昔の面影が残っていた。
彼は私に気付いていない様だったが、私は子ども時代の記憶が蘇り、目頭が熱くなっていた。
声を掛けたかった。しかし、口を開けば涙が出そうで、私は黙って窓の外を眺める事しか出来なかった。
結局、何も言えないまま目的地に到着し、支払いをした。
「ありがとうございました。またいつか!」
彼はそう言って赤い手を伸ばし、私に油まみれのお釣りを渡した。
それは、どこか懐かしくて、何だか嬉しい不快感だった。




