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日曜の午後
「熱い鍋、はい、1、2、3!」
師範の掛け声に従い、私達白帯は鍋を掴み、自らの耳タブをつまみ、そして手を下ろした。
「柔道もシチューも、受け身から始めなければ怪我をするぞ!」
何か趣味を作らねばと参加した“おじさんの料理教室”は、私が想像していたものとは違っていた。
「さぁ、もう一度熱い鍋、はい、1、2…」
その時、料理教室の扉が蹴破られ、フライ返しを持った黒帯の一団がなだれ込んできた。
「道場破りだー!!」
菜箸を構える師範の後ろで、私達白帯は必死に耳タブをつまんだ。
黒帯達のフライ返しは、西日が差し込む料理教室の壁で、影絵芝居の様に踊っている。
耳タブをつまむ指に力が入る。
そう、私達は、まだこれしか教わっていないのだ。




