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無回転
私は一人路地裏の喫茶店に入った。
窓際の席に腰掛けてコーヒーを注文すると、マスターが直々にコーヒーを運んで来た。
「お客様、こちらは無回転コーヒーでございます。かき混ぜずにお飲みください」
「無回転コーヒー?」
「そうです。野球でもサッカーでも無回転のボールは変則的な動きになります。それと同じで回転のないコーヒーは飲む度に味の軌道が変わるのですよ。さて今回はどんな味になるでしょう」
半信半疑ではあったが、私はコーヒーをかき混ぜずに一口飲み、そして印象を伝えた。
「口当たりは物凄く軽やかですが、急に景色が変わり、強い衝撃が来ますね。その途端、鼻先には土の香りが感じられ、それに一瞬戸惑うんですが、間もなくして押し寄せて来る理解とカッと熱くなる身体。後味もかなりビターで…」
マスターは穏やかに言った。
「泥酔して大転倒味でございます」
それは隣のビルのせいで、日の光が全く届かない昼下がりの窓際だった。




