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川
日が暮れた頃、私達は近くの川原に集まった。
「今年もこの季節が巡ってきたわね」
この会を取り仕切る、同期入社の女性社員が言った。
「ああ、ホント感慨深いな」
私は緩やかに流れる川を、ボンヤリと見つめながら答えた。
「それじゃあ、そろそろ始めましょうか」
その言葉を合図にして、私達は川の縁にしゃがみ、掛けていた眼鏡を外した。
「じゃあいくわよ。せーの…」
私達は眼鏡を川に浮かべて手を合わせた。
“眼鏡流し”は、この一年で退職した者の魂を弔う慰霊行事なのだ。
「眼鏡は勤勉な会社員の象徴なのよ」
同期はそう言って立ち上がると、自分の眼鏡が流れているであろう辺りを目を細めて眺めた。
実の所、眼鏡は手を離すと同時に川底へと沈んでいくのだが、眼鏡を失った私達にはそんな事を知る由もなかった。
そうして私達は川原で何度も何度も躓きながら、家路を急ぐのだった。




