21 凛、確保される。
洞窟の崩落事故を生き延びた私達は、一直線にダンジョンの門に向かった。
元の世界に帰還すると、その足で山田先生の所へ。
普段、山田先生はあちこちを忙しく動き回っているんだけど、その本拠地は私の自宅(宿直室1)があるトレーニング施設だった。そこで国所属の魔法官や養成所の候補生達の才能を伸ばしてあげているんだって。
私達がその診療室に駆けこんだ時、山田先生は不在だったけど、運よくすぐ近くの異世界対策局本部にいるようだったので呼んでもらうことに。
職員の人が電話で事情を説明すると、ものの数分で彼女は現れた。
ずいぶん慌ててるみたいだね。どうしたんだろ?
先生は早速私の左眼を診てくれた。
「話を聞いてまさかとは思ったけど……、……間違いない。実際にこんなことが起こりうるなんて……、いえ、でも確かに可能性としてはゼロじゃない……」
しばらくぶつぶつ呟いた後に、山田先生は私達四人の方に向き直った。
「咲間さん、あなた、その左眼もS級魔眼よ」
ふーん、そうなんだ。
魔力の放出量が右のレベル5と同じくらいだったからそんな気はしてたけど、やっぱりねー。どうやら左は私自身を強化する魔法みたいだし、とりあえず自分で戦える力が手に入ったのはよかったかも。
「皆、私もう強化担当だけの女じゃなくなったよ」
振り返ると唯と奏山先生の顔が目の前にあった。
「何を落ち着いてるのよ! あんたS級魔法二つ持ちになったって分かってるの!」
「そうですよ! 一つでもすごいのに二つなんて!」
そりゃ私だってすごいことだとは思ってるよ。だって魔法は一人一個だもんね。
二つも発現することはあるのか、山田先生に聞いてみた。
「あるわよ、かなり珍しいケースだけどね。大体は二つセットみたいに、対になっていることが多いわ。あなたもまさにそうでしょ」
スマホ片手に電話をかけながらそう教えてくれた。
なるほど、セット魔法だしどっちもS級だし、珍しいことづくめだ。
それより嬉しいのは、これで一人の時にダンジョンが出てきても大丈夫ってことかな。左眼もコントロールには時間が掛かりそうだけど、全力で殴るだけならできるもんね。
ああ、やっとこのトレーニング施設から出られる。宿直室暮らしも今日で終わりだ。
早速、山田先生から対策局の方にお願いしてもらおう。
あっと、今は電話中だった。
ちょうどこのタイミングで相手方が応答したらしい。
「松島、やっぱりS級だったわ。ええ、分かってる。じゃあ直村さんに、え? 奏山さんの方がいいの?」
山田先生のスマホが奏山先生の手に渡る。
「はい……、はい! 了解です! すぐに確保します!」
……ん? ……確保?
電話が終わるや、奏山先生はガバッと私に抱きついてきた。
「奏山魔法官! 要保護対象者、咲間凛さんを確保しました!」
これを見た唯が「尊い!」と叫んだ。
確かに尊いけど、何この状況?
「……先生、いったいどういうことですか?」
「咲間さんはこの施設から出てはいけません! 私が二十四時間体制で監視します!」
「……先生、いったいどういうことですか?」
私は同じ言葉を繰り返して、次は山田先生の方に尋ねていた。
「奏山さんが言った通りよ。あなたをどうするか、今から皆で話し合うから、決定が出るまでこのトレーニング施設内にいてちょうだい」
……か、帰れない。むしろ状況はさらにひどくなった。
奏山先生が私にピッタリ引っついて離れないし……。
この状況を眺めていた絢先輩が何か閃いたような顔に。
「民間人ですが確保に協力します!」
とガバッと抱きついてきた。
「ふふ、もちろん二十四時間体制ですよ、凛さん」
先輩、機に乗じてる場合では……。
身動きのとれない私の有り様を見て、唯が笑みを浮かべる。
「凛、大変な事態だってことが分かったでしょ?」
「……そうだね、ダンジョンで絆を深めたはずの仲間達に取り押さえられてるんだから……」
この間に山田先生は診療室から出ていこうと支度をしていた。
「松島が緊急招集を要請したから決定はすぐに出るわ。それまで大人しくしていて」
「すぐに出るなら二十四時間体制じゃなくても……。あ、そうだ、これをお金に換えたいんですけど」
私が取り出したのは洞窟で採掘した小粒の宝石だった。
すると、山田先生はルーペを持ってきて渋々ながら一個一個見てくれた。何でも先生は異世界素材の鑑定資格も持っているらしい。
六つの宝石全てを鑑定し終わると、山田先生は書き留めていた紙を手に取る。
「総額九千九百八十円ね。もうここで買い取ってあげるわ。私急いでるのよ。はい、二十円はおまけしておいてあげる」
ペシッと机の上に一万円を置いた。
「私達が命懸けで入手した宝石が、一万……」
「命懸けになったのは凛のせいだけどね」
唯から冷めた眼差し。
そ、そうだね……。
ゴロッと五百万どころか、一万円のために死にかけるとは。せめて宝石もう一粒くらいポケットのどっかに入ってないかな。
探っていると飛び出た星型の実がころころと床を転がった。
それを見た山田先生が。
「あら、その実なら一つ二千円で買い取るわよ」
「え、そんなに高くですか?」
「その実はあなた達も使っている魔力回復剤の原料なの」
あるだけ全部出してみると二十個あった。四万円が机に並べられる。
……最初から外で木の実採集していればよかった。
と、ここで山田先生のスマホが鳴る。
「ごめん松島、すぐ行くから。え! もう大臣到着したの! 急ぐわ!」
先生はバタバタと診療室を出ていった。
私はゆっくりと唯の顔を見る。
「……大臣って?」
「魔法大臣よ。ファンタジーな名前だけど、魔法省を預かるれっきとした内閣の閣僚ね」
「そんなすごい人まで会議に出るの……? もしかして……、私の魔法って、大変な事態?」
「だから言ってるじゃない。あんた、もう国家機密なのよ」





