13 凛、ダンジョンの真実を知る。
学校の応接室に私達は呼び集められた。私達というのは、私と唯、奏山先生、絢先輩、の今回戦った四人だ。
話を少し戻すと、飛んできたヘリコプターは自衛隊などが使いそうな軍用のヘリだった。
そこから下りてきたのは二人の女性。
一人はなんと、私の右眼を診療してくれた山田先生だったので本当に驚いた。彼女ともう一人が学校側に話をつけ、まずこの部屋を借りたみたい。
ソファーに座るよう勧められた私達四人。
誰も喋らず、沈黙が場を支配している。あ、外からパトカーや救急車のサイレンが聞こえてきた。
「この部屋には誰も近付かないように動いてくれる手筈になっているわ」
そう言った山田先生の顔を、私はじっと見つめる。
「先生の魔法って戦闘用だったんですか?」
「違うわよ。私はたまたま本部にいたから同行させてもらっただけ。一応、今回の関係者でもあるからね」
どうやら普通のお医者さんじゃないらしい。
だけど彼女は戦闘要員でないとなると、援軍はもう片方の女性ただ一人、ということだよね。
その人はいかにも政府の人間といった感じのきちっとした身なりをしていた。そんな外見とは裏腹に、内に秘めた魔力は計り知れないほどだと思う。たぶん唯よりもずっと上だ。ということは、A級か、……S級。
何者なのか尋ねようと唯に視線をやると、彼女はカチカチに固まっていた。
いやいや、さっきの物知り顔で余裕たっぷりだった唯はどこへ?
「あんなでっかい虎をやっつけてたのに、どうしてそんな借りてきた猫みたいになってるの?」
「……こちらの方は、私の上司の松島さん。……とても怖い方なのよ」
それだけ述べると彼女は喋らなくなった。
よく見ると、その隣では奏山先生も固まっている。お守りの魔法少女フィギュアを握り締め、相当緊張しているようだ。
「先生、さすがに人前でそのお守りを出すのは……」
私が指摘すると、奏山先生は慌てて人形を懐にしまった。無意識だったらしい。唯がカチカチになりながらも「尊い」と呟く。
「……松島さんは、養成所で私の教官だった方です。……とても怖い方なんですよ」
二人の話からは、松島さんが怖いということしか伝わってこなかった。
当の彼女はこれを受け、立っていた窓際から歩き出す。私達と同じ机を囲む椅子に腰を下ろした。
「あなた達のおかげで私の第一印象は最悪です」
鋭い眼差しを唯と奏山先生に送る。
二人を完全に石化させた松島さんは、一転して柔らかな空気を纏い、私に視線を移してきた。
「異世界対策局の松島です。咲間さん、まずはあなたに謝らなければなりません。この度は危険な目に遭わせてしまい、申し訳ありませんでした」
と彼女は私に向かって頭を下げた。
おそらくそれなりの立場にいるであろう人からそんな風に謝罪され、私は大いに焦ることに。どうしていいか分からず、とりあえずこちらもペコリ。
「危なかったのは私だけじゃありませんので」
「そうではありますが、やはり咲間さんには事前にお伝えするべきでした。確証のないことだったとはいえ」
「……私には? 事前にって、まるでダンジョンの出現が分かっていたみたいじゃないですか」
「その通りです。今回狙われたのはあなただったのですから」
「……え?」
思いもしていなかった言葉に、私の思考は停止した。
再び応接室に沈黙が訪れる。
これを破ったのは意外にも絢先輩だった。遠慮がちに小さく手を挙げる。
「……あの、私、少し気分が優れないのですが」
そういえば、先輩はさっきからずっとフラフラしていた。
すぐに山田先生がその隣に座り、鞄から錠剤を取り出す。
「大丈夫よ、魔力の枯渇が原因の一時的なものだから。これを飲めば回復が早まるわ」
絢先輩に水のペットボトルを渡しながら、山田先生はフフフと笑った。
「普段は力を使わずに生きてきたようね。でもあなた、大変な才能よ。訓練でB級以上にはなれるわ」
それから彼女は松島さんの方に振り向く。
「このチームは全員有望よ。誰も死なずに乗り切ったし、今回は私達の勝ちね」
「ええ。ですが山田先生、有望とは奏山さんもですか?」
「彼女ね、また芽が出てるの。この一件で第二成長期に入ったみたい。まだまだ伸びるわよ」
山田先生は奏山先生の元まで行くと、その頭に手をかざした。
「手伝ってあげるわ。ただし身長は伸びないから」
「分かっていますよ……。……え、じゃあ私、C級に?」
「なれると思うわ」
「本当ですか!」
よかったですね、奏山先生。C級になれば本職の魔法少女になれますよ。……絢先輩はB級を保証されてましたけど。
でも、山田先生って人の才能を伸ばしたりできるのか。
あれ? あの感じ、なんか覚えがあるような……?
首を傾げていると、山田先生は横目でこちらを見ながら。
「気付いた? 咲間さんにも同じ処置を施したのよ」
才能の芽を探し当て、育む。それが山田先生の魔法だそうだ。
本来、魔力自体にも運命に干渉する力があるらしくて、自身の魔法の能力も合わせ、通院してきた私に出会ったんだとか。
私を不安にさせないために魔障と偽り、その実、こっそり開眼が早まるように育んでくれていたんだね。……本当、とても有難い。
「なお、敵も才能を見つける力を使っていると考えられています。もちろん芽を育むためではなく、摘み取るためですが」
松島さんがそう語り出す。
先ほどの話の続きだと分かった。たぶんこれを聞かれないように人払いをしたのだということも。
彼女は私の顔をまっすぐに捉え、まだ世間の知らない真実を明かす。
「ダンジョンとは、脅威となる才能を狙って送られてくる攻撃船です。また、こちらに接岸後は力のある者を誘い出して始末する罠に変わります」





