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4、成果はいっぱい




 お昼ご飯はユランとアインが大量に捕まえたカザメの稚魚の塩焼きと携帯食を食べることにした。あまりにも大量だったため、第二騎士団にもお裾分けしたほどである。


「アインは漁が上手だね」


 エスメラルダは香ばしく焼けた稚魚を齧りながら、まだ幼さが残るアインを見やる。


「ユランさんが手伝ってくれましたからね!よく家の手伝いで捕まえてましたし」


「俺が頑張った」


「アインの方がお兄ちゃんじゃん」


「は?俺だが」


 ぶっきらぼうに言うユランに気を悪くすることなくアインはご機嫌そうにしている。エスメラルダは完全に歳が逆だになっていると思った。ギリアムもきっと同じことを思っているはずと目をやると、バチリと視線が絡みあった。


「それじゃあ、食べ終わったしこれからの予定を説明します!」


 腹も膨れて元気が出たところで、エスメラルダはロイドと話した今後の日程について伝達する。

 そして時間になり、エスメラルダ達は駆除に出向く第二騎士団とは別れ、罠の設置場所へと到着した。


 エスメラルダとギリアム、ユランとアインで組み、二手に分かれて、罠を四箇所に設置。檻を組み立てたら、電気の確認をして、中に餌を置く。最後に映像記録機を設置して準備完了である。

 エスメラルダ達の設置場所は草原の中にある池の近く。おそらく第二騎士団の攻撃から逃げてきたコドルが来るであろう場所。足跡が残っていたので来る可能性は高いだろう。ユラン達はまた少し離れた似たような場所に設置してもらった。

 設置を完了し、合流地点で先に着いていたエスメラルダ達はユラン達の姿を見て安堵する。


「無事に設営おわったー?」


「終わった!記録機も配置完了だ。さっさとテントに戻ろう」


 馬に乗るアインの後ろからユランが返事をする。


「ユランも乗馬の練習したらどう?人の後ろに乗るのちょっと情けなくない?」


「落馬して死ぬより、情けない方がかっこいいだろ」


「いや、格好良くはないけど」


 相変わらずなユランにエスメラルダはため息が出た。



 テントへ戻り、早めに夜ご飯の準備をすることにした。ギリアムとアインは夜の任務が待っている。エスメラルダは栄養をしっかりつけてもらうように、荷馬車に積んでいた野菜と干し肉でシチューを作ることにした。

 ギリアムはまたもや律儀に「手伝います」と芋の皮を器用に剥いている。芋の皮を剥ける貴族が今までいただろうか!とエスメラルダは自分のことは棚に上げて仕切りに感心した。

 夜ご飯を食べ終わると第二騎士団の面々がテントへ戻ってきた。話を聞くと三分の一は駆除に成功し、残りは散開し逃げていったらしい。夜は予定通り草原を抜けた森を探索し、見つけ次第仕留める作戦である。


「よーし、じゃあもう俺らは寝るわ」


 ユランは夕食後すぐに体を水で清めて、テントに寝床を作り始めた。

 ユランは研究所では気分屋なせいで就業時間に仕事終わることはほとんどなく、残業と徹夜が普通の不規則な生活をしているため、することがなく強制的に寝るしかない遠征は唯一睡眠時間が取れる仕事だった。


「エメも早くこいよ〜。冷えてくる前に一緒に寝よう」


「はーい。お茶飲んでからね」


「…お二人は一緒の寝床ですか?」


 ちょっとずつ二人の距離感に慣れてきたギリアムだったが毎回確認せずにはいられなかった。


「お前らはそっち側で好きに寝ろよ。夜は冷えるからしっかり着込んだ方がいいぞ。それか二人で寝た方が良い。温かいからな」


「そんなに冷えるんです?」


「ここ一帯はかなり。できるだけ暖かくした方が良いよ。心配だったら寝る前に沸かしたお湯を皮袋に入れて寝床に持ち込むと良いよ」


 エスメラルダはそれ用に持ってきていた皮袋を二人に渡す。ギリアムはそれを受け取り、疑問に思っていたことを口に出した。


「お二人は恋人ではないんですよね?」


「「ないね」」


「ただの同僚だよ」

「こいつにそんな感情抱いたこともないね」

「同僚としては良いけど、付き合ったら絶対面倒くさいよ、この人」

「いやいや、お前ほどあっさりしてる方がおかしいんだよ」

「こだわりが強すぎる男がよく言うよ」

「お互い便利だから一緒にいるだけだな」

「そうだそうだ」


 ギリアムは言い争う二人をみて、ただ仲が良いだけかと思い直すことにした。距離感がおかしいだけだ。それが一番、問題なのだが。

 隣のアインでさえも「変な二人だなぁ」と口に出してしまっている。第三研究所が変人の集まりなのは本当のことだった。






 エスメラルダ達は朝から仕掛けた罠を見に行くと、丸焦げのコルドが四匹倒れていた。全ての罠に引っかかっていたのである。まさか初日から目標数越えできるなんてとユランとエスメラルダは飛んで喜んだ。試験でこんな上手く行くことはないからである。

 荷車に無理やり四匹乗せ、テントへ戻るとちょうど昼の時間になっていた。荷車への積み込みにかなり時間をくってしまったのだ。


「ギリアム、アイン!夜ご飯は楽しみにしてて!一匹きれいに捌いて待ってるからね」


「う、はい…」

「楽しみにしてます!怪我に気をつけてくださいね」


「任せて!」


 エスメラルダは作業着の上からゴム製の防護服を着て、ギリアムが見たこともない幅広の包丁をブンブン振りながら、二人を午後の任務へと送り出した。

 ギリアムはなんだか侯爵令嬢の見てはいけない姿を見た気がして意識が遠くに行きそうだった。アインはご馳走が食べられるとご機嫌である。

 その夜は多めに捕獲できたコドル肉でパーティーをした。第二騎士団へもお裾分けして、味には太鼓判を押してもらった。


 そして駆除は無事に終わり、大満足の結果で今回のコドル狩りは幕を閉じたのだった。







「ねぇコドルの加工できたから、ちょっと食べてみてよ。すごいんだって」


 エスメラルダは遠征から帰った後、すぐにコドルの加工処理を始めた。まず通常の干し肉の作り方で試し、なんだか違うと乾燥させる日数や味付けなど改良に改良を重ね、厨房の料理人と相談を繰り返し、やっとのことでまともな味になったのだ。

 書類作業で机にかじりついていたユランに手を止めてもらい、コドル干し肉の味見をしてもらう。口に入れたユランは無表情でエスメラルダを見た。


「これは極上のツマミだ。酒が飲みたい」


「そう言うと思って持ってきました」


 ドンと机に酒瓶を置く。

 ユランはキラキラと顔を輝かせ、手を叩いて喜んだ。ただいま夜二十三時である。アルガス所長もガノもとっくの昔に帰宅していた。部屋には、加工に熱中していたエスメラルダと明日締切の書類を仕上げているユランの二人である。誰も二人を止める人はいない。

 エスメラルダは目ざとくユランの書類が完成する時を狙っていたのだ。この完成祝いの酒盛りに付き合ってもらうために。


 その夜は二人で楽しく酒盛りし、いつのまにか寝落ち。朝になり二日酔いでボロボロの二人をガノがシャワーに連れて行き、復活したエスメラルダはギリアムとアインに干し肉の差し入れをしようと、ついでのクッキーを焼き始めた。ユランは二日酔いの薬の効き目虚しく、机に突っ伏している。

 ガノはそんなこと気にせず通常業務に集中していた。アルガス所長はいつもの光景だなぁと微笑ましくなる。手には第一騎士団のオーウェン団長から個人的なお礼として第三研究所に寄付金を送る旨の書類が握られていた。




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