兆し
22時を少し過ぎた頃、すっかり熱が引いたCJは教科書を開き属性についてアイリスと話していた。
「つまり、人が持っている属性には英雄、信仰、知恵、文明、協生、皇帝の基本6種がある。そして、稀に星、朽、異の特異3種の属性を持った人が生まれるってことだね?」
「そうらしいよ?そしてそれぞれ得意な魔法も違うらしいよ。だから、自分の属性を知るためにはまず自分の得意な魔法を知らないといけないんだって。でも特異3種はデータが少なすぎてそれぞれ何の魔法が得意な傾向にあるのか分からないみたい。」
CJは一通り教科書の属性のページに目を通し、認識が合っているかをアイリスに確認した。
そしてアイリスの答えに耳を傾けながらページを捲った。
「アイリスは何が得意とかある?」
「ん〜まだ色々習ってみないと分からないけど、力魔法は苦手かも…。CJは?」
「私はねぇ、そうだなぁ。お父さんに色々魔法を習ったんだけど、空間魔法が1番しっくりきたかなぁ。」
「えっ!!そんな難しい魔法使えるの!?」
「近くの物の位置を変えるくらいしかできないけどね。でも他のやつよりは覚えるまで早かった気がする。」
アイリスは教科書を覗き込み何かを探すように目を動かした。
そしてそれを見つけたのか目を止め、顔を教科書に近づけた。
「じゃあCJは皇帝属性かもしれないね!」
「まぁまだ分からないけどね。その可能性はあるよね。」
CJはパタンッと教科書を閉じ、大きく背伸びをし立ち上がった。
「とりあえず目を通す物には目を通したしお風呂行こ?お風呂。」
「うん。風邪治ったし、明日はCJも授業出れるね!楽しみだなぁ〜!」
そして次の日、CJとダイジーとフィイはお互いに自己紹介を済ませ、授業が始まるまでアイリスを含めた4人で談話していた。そこでアイリスはある気になる話をフィイから聞いた。
「そう言えば聞きましたか?昨日の夜、騎士学校の生徒が1人行方不明になったそうです。とても優秀なお人で、勝手にいなくなるような方ではないそうです。ですので何か事件に巻き込まれたのではないかと噂になってます。」
「僕も聞いたよ。夜のジョギングが日課だそうで、その日もいつも通り寮を出たきり帰ってこなかったと。僕たちも気をつけないとね。」
その話を聞いたアイリスは昨日道を尋ねた男を思い出し、その人でないことを祈った。
CJも同じことを思ったのかふと目が合い、お互い頷いた。
その日の最後の授業は夕方までかかり、4人が校舎を出る時には外は薄暗くなっていた。
ダイジーとフィイは何か用事があるとの事で、アイリスとCJは校舎前で2人と別れた。
2人が街灯の下を通ると灯りがつき、アイリスは一瞬驚いた。
「本当に凄いよねぇ。独りでに明るくなるんだもんね。村じゃ考えられないよ。」
「昨日も言ってたよね。そんなに暗いの?」
「そりゃもう!すっごく暗いよ!外を歩けたもんじゃないよ。真っ暗なんだから。」
「へ〜そうなんだぁ。私はずっとここにいるから想像もできないよ。いつか行ってみたいなアイリスの村。」
「おいでよ!暗いけど星空は綺麗だよっ!!」
歓談しながら寮への道を歩いていると、視界の端で影がサッと動くのが見えた。アイリスはそちらへ目線を移したが何もない。CJも見えたようで影が見えた方を凝視している。
「CJ、早く寮に行こう…?」
直後、震える声を出すアイリスの右腕を何者かが掴んだ。
アイリスは叫び声を上げ、腰の力が抜け倒れ込んでしまった。
「アイリス大丈夫!!??」
CJが庇うようにアイリスと何者かの間に立ち塞がる。
アイリスは恐る恐るCJの後ろから腕を掴んだ者を見た。それはこの学校の生徒だった。
「どうしたんですか!?何かあったんですか!?」
CJが生徒に呼びかける。しかし応答はなく、その人はふらふらしながら息を荒げこちらを見ている。
「やばいやつだ……。」
2人は同時にそう思った。
アイリスはすぐに逃げ去りたかったが先程の衝撃で脚に力が入らず立ち上がれない。
CJの肩に腕を回し立ち上がろうとするが、上手く脚を動かせない。
おかしな生徒はゆらゆらと少しづつこちらへ近づいてくる。
2人の恐怖は頂点寸前だ。
「大丈夫か!!!???」
叫び声を上げそうになった時、後ろからエレンの声が聞こえ2人は安堵した。
エレンの後から校長も駆けつけ、その生徒は取り押さえられた。
「お前たち何もないか?怪我してないか?」
2人は声が出せずただ1度頷いた。
それを見たエレンは安心した表情をし、校長の方へ振り返りまたこちらを見た。
「とりあえず今日は寮に帰って落ち着かせなさい。話は明日にでも聞かせてくれ。」
そう言いエレンは2人を寮まで見送り校舎の方へ戻っていった。
それからアイリスとCJは多くは語らず、早くに布団に入った。