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リバース  作者: √k
37/41

願い

3人が村を訪れてから1週間が経った。

アイリスは毎日運命魔法の練習をしているが、失われた魔法のコツを知る者などいるはずもなく、何の成果も得られずにいた。


そんな中、王都近郊の村でCJが暴れ回り被害が出たという報せが届き、ヴィクトリアとアイクはアイリスを村に残し1度王都へ戻ることにした。


「ヴィクトリア様、私も同行させてください。無理は承知です。唯一の救済方法である運命魔法をまだ上手く扱えていない現状では足手まといになるかもしれません。でも、CJは友達なんです。最後まで諦めたくありません。この1年、1番近くで見てた私だからこそできることも、きっとあります。お願いします。同行させてください。」


アイリスの真っ直ぐな視線がヴィクトリアを貫く。

この娘が行くと言いだすに違いないと予想していたヴィクトリアの答えは既に決まっていた。


「よく言った!ならばさっさと準備を整えろ、時間が無い。」


「はい!!」


アイリスは部屋に駆け込み40秒で支度を済ませた。


その後3人は王都へ戻り、状況を確認した。

CJの捜索及び確保は準備を整え翌日行われることになった。


明日の不安は明日解決すれば良い。今はただ気持ちを落ち着かせようと、アイリスは思考を止め、眠りにつく。


遠くで風鳴りが聞こえる。

ただ、ただ、それに意識を集中させる。

やっと眠気を感じ始めた頃、外から鳥の囀りが聞こえ、カーテンの隙間から光が漏れる。


「あぁ……起きなきゃ……。」


アイリスは鈍い思考で重い身体を起き上がらせ、支度を整えた。


まだ肌寒く人の姿が見えない街路を1人歩く。


城へ着くと、見知った門番がアイリスを通した。

何度も通った廊下を進み議会の間へ入ると、誰もいないと思っていたそこにはヴィクトリアが静かに座っていた。


「おお、アイリスか。早いな。」


「ヴィクトリア様こそお早いですね。誰もいないと思っていました。」


「私は眠らないからな。こんなに早く来て、1人で何かしようとでも思っていたのか?」


「いえ、ただ寝付けなかっただけです。」


「そうか。まあ座れ。少し話をしよう。」


その後、作戦に参加する者全員が揃うまで2人は話し続けた。ヴィクトリアはそれをまるで友との語らいのように楽しんだ。


ヴィクトリア、アイリス、その他数名の騎士は打ち合わせと装備の支度を整え王都を出た。


CJが現れたという村へ着いた一同は壊された家屋の残骸の数々を目の当たりにした。

これを本当にCJがやったのか、アイリスは疑念を抱かずにはいられなかった。


「アイリス、戻るなら今だぞ。」


アイリスの様子を見たヴィクトリアが提言した。


「いえ、大丈夫です。」


僅かな心の揺らぎも無く、アイリスは返答した。

本人に会い、全てをその口から聞くまでは折れることは許されない。


手分けして村民に聞き込みをした後、その話を元にCJを探すため村を後にした。

まず手始めに、村民の多くが言っていたCJが立ち去った方角、村の南西へ向かうことにした。

村の南西側はほぼ森林地帯のため、気配を殺し隠れていた場合、そう簡単には見つけられない。


3時間程人が隠れ潜めそうな場所を重点的に探し回ったが、CJを見つけることはできなかった。


時刻は昼過ぎ。

休憩を取り、その後は二手に別れ捜索を続けた。アイリスはヴィクトリアと若い騎士の3人で行動した。


しばらく歩き続けると狭い岩場へと辿り着き、その一角に洞穴の入口を発見した。3人は無言で確認をし合い、ヴィクトリアを先頭に洞穴の中へと入っていった。


陽光が入らないほどの所まで進むと、ヴィクトリアが幾つかの炎の玉を空中に出し足元を照らした。便利だろ、と笑うヴィクトリアに2人もクスッと笑い相槌を打つ。


数分直進し続け、ヴィクトリアは足を止めた。そして何やら渋い表情をしている。

若い騎士はどうしたのかとヴィクトリアに尋ねた。


「空間が隔てられている。この先には進めん。」


「ヴィクトリア様、それって……!」


アイリスはあることに気づきヴィクトリアに問い掛ける。

それにヴィクトリアは淡泊に答える。


「あぁ、CJは空間魔法が得意だ。つまり、この先にいるのは確定だ。」


ついに居場所を突き止めた。感情の昂りが鼓動を早める。しかし、すぐそこに居るのにこれ以上近づくことができない。


「せっかく、ここまで来たのに……。」


「よし、1度ここを出よう。」


「ですが────!!」


「考えがある。出るぞ。」


そして3人は元来た道を戻り洞窟の外へ出た。

それからヴィクトリアは騎士に、自身とアイリスを覆う防壁を展開するよう指示を出し姿を消した。

若い騎士は言われた通り2人を防壁で覆いその場で待機した。


次の瞬間、上空に高純度の魔力を感知し上を見上げる。

そこには巨大な炎の塊が浮かんでいた。それは洞窟の真上に落ち辺り一帯を吹き飛ばした。


土煙が舞う中ヴィクトリアが再び姿を現した。


「怪我は無いな。よし、障害は吹き飛ばしたことだし、とっとと進むぞ。」


と、ヴィクトリアは土煙の中を躊躇せずに進んでいく。

2人もそれに続き、足元に注意を払い進む。


土煙が消える頃、3人はついにCJと対面した。


「ヴィクトリア様、昔から思っていましたが、やっぱり馬鹿ですよね。困ったら力押しって、単細胞すぎません?お陰で身動きが取れません。」


「それは僥倖。力があるとな、あれこれ知恵を巡らすよりも突っ込んだ方が早い時もあるんだ。」


非常に機嫌の悪そうな態度のCJに対し、ヴィクトリアは淡々と返す。


「CJ…………。」


「アイリス、あんたも来たのね。何もできないくせに。」


「力が足りなくても、やらなきゃいけないときがある。それが自分の願いのためならなおさら。何もできないなんて言ってられない。動かなきゃ、願いは叶わない。」


「ということだCJ。私らと一緒に城へ帰る気はないか?」


「あったらとっくに帰ってますよ。それで、どうします?私としては殺しあってもいいのですが、そちらはそうではないでしょう?」


「そうでもないぞ?止むなしと思えば殺すさ。」


沈黙が続く。

痺れを切らしたアイリスが飛び出し、後ろの2人がそれに合わせる。

作戦は単純。動けなくなったところを捕縛。そのためにまず、アイリスが仕掛けCJの動きを制限する。


アイリスは改良を施した刻印銃を構え、CJに当たらないよう付近に弾をばら撒く。

当てる気が無いと悟ったCJは慌てる素振りも無く、平然と佇んでいる。


しかし、こちらの作戦に勘づかれたのかCJは後ろへ飛び退いた。

その時に銃弾がCJに当たってしまいアイリスは咄嗟に引き金から指を離した。


「CJ!!!」


5発程は当たっただろう。アイリスは叫びCJへ駆け寄ろうとしたが、それをヴィクトリアが止めた。


「どうしたんですか!早く手当てしないと!」


「よく見てみろ。かすり傷すらついていない。」


その言葉に耳を疑ったアイリスはもう一度CJへ目を向ける。よく見てみると本当に、かすり傷1つついていなかった。


「なんで、だって、確かに当たってた……。」


「自分の周りに他の空間を置いて外の空間と隔絶してるのよ。だから私には指1本触れられないわ。安心してそれを撃ち尽くしなさい、アイリス。」


傷がついていないことに安堵したと同時に、絶望した。触れられないということは、捕まえられないということだ。つまり─────。


「アイリス。いいな?」


「………………はい、CJを、殺しましょう。私が誘います。後はお願いします。」


そしてアイリスは再び引き金を引く。今度は、明確な殺意を込めて。


ヴィクトリアの最大火力はCJの纏う空間を一瞬だけ貫くことができる。捕縛ができる時間ではないが火力でゴリ押して殺すことはできる、ほんの一瞬だけ。

その隙を作るためアイリスは攻撃の手を緩めない。


アイリスとCJの鬼ごっこは続く。

CJは誘い込まれないよう上手く立ち回り、アイリスはそれを追うので精一杯だ。


「アイリス、そんなもので私をどうこうできると思わないことね!私はそれの開発に携わっていたのよ?癖や性能は熟知しているわ!」


「それはどうかな。CJがいなくなってから、あれから何回も改良を繰り返した!もうCJが知ってる刻印銃じゃないよ!それに、CJにも教えてない奥の手くらい私にもある!」


銃撃音が鳴り響く。森に、空に、鳴り響く。

幾度もマガジンを差し替え、残りはあと僅か。CJもそれを分かっているのかこのまま逃げ続ける気だ。


そしてその時がきた。残弾が尽き銃声が鳴り止んだ。

それと同時にCJも安全な距離を開け立ち止まった。


「アイリス、私はね、ずっと貴方が嫌いだったの。いつも前を向いていて、努力を重ねる貴方が。今だってそう、諦めてない。その目が、声が、姿勢が、大っ嫌い!!!」


「……………………そう、別にいいよ。私は、私の好きだった友達を守るだけ。」


その瞬間、CJの目に映るアイリスの像が崩れた。


「まさか、幻覚系のま────!!」


背後にアイリスの気配を感じた時には遅かった。

魔術を通し魔力で生成した物は防げても魔力そのものは防げないと踏んだアイリスは賭けに出た。

精神魔法の多くは魔力に術式効果を乗せ発する。魔力の流れまで止めていては魔術は使えない。そのため空間を隔てても防げなかった。


これで終わる、そう思った瞬間CJの脳裏に過ぎったものは────────。


アイリスはヴィクトリアの炎に巻き込まれないよう全速力でその場を離れた。

だがヴィクトリアの魔力は感じ取れず、姿も見えない。


「まずい、術式の効果が切れる!」


逃げられる。そう思った次の瞬間、CJの周囲を純白で多面型の防壁が覆った。


「え…………。」


「終わったんだ。さぁ、帰るぞ。」


何が起きたのか飲み込めないでいるアイリスの肩を叩きヴィクトリアは微笑んだ。


ヴィクトリアはCJを防壁ごと担ぎ、アイリスと若い騎士と共に、別行動を取っていた騎士達と合流した。


その後、防壁の中で意識を失ったままのCJは城の地下室に幽閉された。


その術式が解かれるのはそれから半年後のことである。

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