精霊の残滓
インクリプス撃破から2日が経過した。
CJを元に戻す手段を失ったアイリスらは、インクリプスが口にしていたルフの里とアイリスの繋がりについて調べるため、アイリスの故郷の村へ向かっていた。
案内役のアイリスを始め、ヴィクトリアとアイクが同行した。
汽車から降り2時間程歩くと、ちらほらと見えていた民家が1件も見当たらなくなった。
道に生える草も多くなり、人通りが少ないことが窺える。
「もう少しで着きます。あの山の麓なので。」
3人は軽く会話をしながら歩みを進める。
山道を歩く一行は村の手前で木の実をつむ第1村人と出会った。
「あら、アイリスじゃない!?久しぶりねぇ〜、元気だった?」
「クレアおばさん久しぶり!ごめんね、あんまり帰ってこれなくて。」
「元気ならいいわ!そちらは、お友達って感じじゃあなさそうね。」
アイリスの後ろで聞き耳を立てていたヴィクトリアが1歩前に出る。
陽光に照らされた金色の長髪と赤い瞳の絶世の美貌にクレアは見惚れ呆然としていた。
「我々はウィルミナル騎士団の者だ。故あってそちらの村長に会いに来た。」
「あらそうなの!?なんの用かしら、なんて聞いちゃだめなんでしょうね。ルートヴィヒなら家にいるはずよ。早く行ってあげなさい。喜ぶわよ。」
「待て。今、ルートヴィヒと言ったか?」
自分の耳を疑っているかのような表情をしたヴィクトリアはクレアに問いをなげかける。
久しく会う父に早く顔を見せてあげようと先を急ぐ足を止め、アイリスはその問いに答える。
「ルートヴィヒは私の父の名前ですが、どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。会えば分かることだ。急ごう。」
3人は足早に歩みを進めアイリスの家に到着した。
「お父さん、ただいま〜!」
「おっ!?アイリスか!?いやぁぁ、卒業するまで会えないと思っていたが。おかえり、どうしたんだ?何か─────。」
ルートヴィヒは話を途中でやめ、豆鉄砲を食らったように立ち尽くし、見開いた目でヴィクトリアを凝視する。
アイリスやアイクが心配をする中、情報を整理し、しばらくしてルートヴィヒは再び口を開いた。
「貴方は、やはり……。」
「久しいな、坊主。」
その様子を見たアイリスは2人は旧知の中なのではないかと思い、確認をしてみた。
「まぁ、少しな。今はそんなことどうでもいい。時間が無い。ルートヴィヒ、お前はアイリスの出生とルフの里について何か知っているだろ。なんでもいい、知っていることを教えてくれ。一刻を争うんだ。」
「………………………………。分かりました。」
ルートヴィヒはアイリスを一瞥し、その後3人に椅子に座るよう促し茶を出した。
その老爺の話によれば次の通りだ。
17年前、この村よりもさらにずっと山奥にルフの里と呼ばれる村があった。そこでは失われた第7魔法、運命魔法を再現しようとその村独自の研究がされていた。
しかし、なかなか成果が出ず悩んでいた当時の里長はある、人道に背く行いで第7魔法を再現しようと企てた。
この世には、炎、海、嵐、地、そして月のそれぞれを司る大精霊が存在し、人々はそれを五大精霊と呼んでいる。里長はその中の1つ、月の大精霊に目を付けた。
月の大精霊は運命魔法を行使できる存在であり、存在そのものが第7魔法であったからだ。
月の大精霊自身には大して戦闘能力は無いことをいいことに、ルフの里の民らは不意をつき大精霊を殺害した。
死体が光へと還元される時にその一部を回収し、月の大精霊の残滓を当時生まれたばかりの赤子のアイリスに埋め込んだ。
その時に赤子の魂は大精霊の津波のような魔力に侵され消し飛んだ。
里はその赤子を第7魔法復興の儀式の使い捨ての触媒にしようとしていた。
だが儀式の途中に赤子の母親が赤子を取り上げ逃走したことにより中途半端な儀式は暴走し、里は壊滅状態となった。
母親は子を川へ流し、暴走した魔法陣の餌食となった。
その後時間の経過と共に赤子の中にあった大精霊の残滓は自我を持つようになり、自分を人間と思い込んだまま成長した。
「わたし、は………………。」
「アイリス!!」
話を聞き終えたアイリスは気を失い、倒れた身体をアイクが支えに入った。
「お前が知っているのはそれだけか?」
「はい。私もこれ以上は……。」
「そうか。すまないが今日は泊まらせてもらえるか?」
「ええ、何日でもいいですよ。」
アイクはアイリスを寝所へ運び、自分も用意された部屋へ向かい眠りについた。
夜が更けて皆が寝静まった頃、酒を酌み交わすヴィクトリアとルートヴィヒの姿があった。
「まさかお前がこんな所にいるとはな。ルゥルやレイラが心配していたぞ。セオドアが2人を宥めるのに苦労していたな。」
「それは申し訳ないことをしてしまいましたな。しかし、私が王都を離れている間にそのようなことがあったとは……。CJには幼い頃に何度か会いましたが、リバースですか……。」
「あぁ。変転術式を施してから10年が経ち、綻びが生じ始めていないかと心配していたが、自分が生きている間は心配ないとセオドアは言い放ちおった。まさか死んだ直後にリバースが解ける事態になるとは、有言実行したと褒めてやれば良いのかどうか。」
「………………………………それで、どうなさるおつもりなんですか?インクリプスが死に、CJに再び変転を施す術は潰えたのですよね。」
「ここに来れば何かあるのではないかと思っていたのだが…………。私にはどうもできんな。」
その時、奥の部屋の戸が開く音が鳴り、意識を取り戻したアイリスが部屋から出てきた。
「アイリス、もう大丈夫なのか?」
「うん、ありがとうお父さん。ヴィクトリア様、CJは私が取り戻します。さっきの話が本当なら、私には運命魔法が使えるってことですよね。どれくらい時間が残ってるか分かんないけど、もう、それしかないと思います。」
「だ、そうだがルートヴィヒ。お前は賛成派か?私はお前らが良ければそれでいい。」
「お父さん、お願い!CJは大事な親友なの。もうこれ以上誰かを傷つけてほしくない。だから、私に魔法を教えてください、お願いします!!」
「…………………………………………………………。」
長い沈黙が続く。
下げた頭を元に戻すことなく、アイリスは懇願し続ける。
それを酒を飲みながら見ているヴィクトリアの顔が焚き火に照らされる。
「……………………分かった。絶対に友を助けるんだぞ、アイリス。」
「ありがとう!」
翌日からアイリスの特訓が開始された。
ヴィクトリアやアイクも自分にできることをし、CJを救う手段を探した。
誰も、見捨てることなど、考えていなかった。
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