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リバース  作者: √k
35/41

難儀

3日後、体調が回復し退院したアイリスはヴィクトリアのもとを訪れていた。


「悪いな、わざわざ来てもらって。少し聞きたいことがあってな。」


「その前に、私からお話してもいいですか。」


「ああ、なんだ?」


「CJのことなんですけど、リバースが解けてこんなことになってるのなら、もう一度リバースすれば、私の知るCJに戻るってことですよね?」


「ああ、その通りだ。そのために明日、インクリプスを捕縛する作戦が予定されている。」


騎士団が動いてくれるのなら何も問題は無い、杞憂だったとアイリスは胸を撫で下ろした。


「それじゃあ次は私が聞く番だな。先の戦闘の最中、インクリプスがお前にルフの里の生き残りと言ったと記録にあった。その事についてお前の容態が落ち着いてから聞こうと思っていた。」


「すみません……。その、ルフの里?については何も知らなくて……。だから、その、明日の作戦に私も同行させていただけませんか!?私が一体何者なのか、きちんと確かめたいんです!」


「…………………………………………。それなら、アーデリス城で身に付けていた装備を着ろ。重量故に戦闘には不向きだろうが、奴でもそう簡単に防御術式を貫通できまい。」


アイリスは頷き、次の作戦用に武装を再調整するためヴィクトリアと共に研究所へ向かった。

技術班の手を借り調整を終えたアイリスはヴィクトリアから作戦の概要を聞き、お互い動きを確認し合った。


そして翌朝、アイリスは騎士団と共に再び北の山脈へ向かった。

体力が桁違いな騎士団の面子は進む速度が速く、最後尾を歩いていたアイリスは置いていかれそうになるも意地で食らいつく。


アイリスの脚が棒になり気力を失いかけた頃、一同は教団施設の入口に到着した。

先頭を進んでいたヴィクトリアが立ち止まり一瞬建物を見上げた後、躊躇無くすぐさま扉を開き敵拠点に足を踏み入れた。


前回とは異なり道中に魔獣の出現はなく、難無く最奥まで辿り着いた。

前回同様、ホールには松明がかけられており薄暗い。

そして奥には玉座とでも言わんばかりの椅子に座るインクリプスの姿があった。


「ヴィクトリア様、お久しぶりですね。怖そうな方々をお連れのようですがどうなされたので?毒ならゼパル様が解毒したはずでは?」


「だから自分に罪は無いと?そんな訳あるはずがないだろう。それに、ここで放っておいてもいづれまた何か仕掛けてくるのだろう?」


「そうですね。貴方と正面から争っても勝てる気が全くしません。ここは逃げましょう。」


そう言い玉座から立ち上がり逃げようとするインクリプスをヴィクトリアが呼び止める。


「待て、1つ話がある。我が国の王女の変転術式が解けてしまったのだが、お前の力でもう一度リバースさせてはくれないか。」


「はぁ?嫌ですよ。それで刑が軽くなる訳でもないのでしょう?しませんよ、そんなこと。」


「そうか、止むを得ないな。であれば──────。」


その瞬間、ヴィクトリアは瞬きの間もなく50メートル程の距離を詰めインクリプスに殴り掛かる。

インクリプスはその拳を防御術式にも似たなんらかの魔術を使い止める。

2人の魔力の衝突による衝撃波は周辺の地を割り壁には罅が入る。離れていた騎士団の者らもよろめく程の衝撃波はヴィクトリアが追撃する毎に激しくなっていく。


ヴィクトリアは大きく飛び退き、埃を舞い上がらせ雑に着地した。

そして息をつく間もなく、地面を強く蹴り上げ敵に向かい突進する。

強大な魔力が込められた拳がインクリプスへと向けられた。その衝撃は先程とは比べ物にはならない。建物は半壊状態となり、余波は付近の木々を吹き飛ばし地面を穿った。


アイリスらは巻き込まれないよう安全な壁際まで退避していた。土煙が舞い上がり、ヴィクトリアとインクリプスの様子は確認できない。煙の向こうからは絶えず衝撃音が聞こえ、その音は徐々に離れていく。

騎士団はその隙に体制を整え、煙の中に意識を注力する。


ヴィクトリアとインクリプスの攻防は続き、勝敗は未だつきそうにない。

ヴィクトリアの一撃一撃は轟音と共に辺りを吹き飛ばし、逃げる敵を追撃する。時が経つ毎に倒木が増え、飛び散った火が戦闘の跡を燃やす。


逃げたくても迫り来る猛追により逃げ道を作れないインクリプスといくら殴っても魔術の防壁により拳を掠らせることもできないヴィクトリア。


なかなか埒が明かない状況に痺れを切らし、ヴィクトリアは大精霊の力の一端を行使した。全身が超高温の炎で覆われ、眩い程の光と辺りの木々を燃やし尽くす程の熱量を放っている。ヴィクトリアは殺してしまわないよう手加減をしインクリプスへと一撃を入れた。

それはインクリプスの術式を解き、捕縛する上での障壁であった防御手段を奪った。


2人は1度屋内に戻り距離を取った。

しばらく睨み合いが続き、先にヴィクトリアが静寂を破った。


「───────インクリプス、お前、もうどれが己の言動かも分からなくなっているんじゃないのか?」


「……………………………………………………。だとしたら、なんです。」


「うん……なに、どうということもないが……。昔とはだいぶ様変わりしているからな。違和感があったが、ついさっきお前の身の内に蠢くものの存在に気づいた。」


「貴方も随分と、人の子のような顔をするようになりましたね……。様変わりしたのはお互い様では?」


「まぁな。ここ300年くらいは人の世にあったからな。まさかそればかりで己に変化があるとは思っていなかったが、情が移ってしまったかな。」


「そう……良かったです、貴方がそこまで甘くなっていて。」


ある場所に誘導されていることにヴィクトリアは気づけなかった。油断をしていた訳ではない。だが、昔の彼女ならばこのような罠に引っかかったりはしなかっただろう。足元に魔法陣が現れ、全身を魔力で編まれた鎖で拘束されたヴィクトリアはその場に跪き身動きが取れなくなった。


それを見たアイリスと1人の騎士が前に出た。

アイリスは装備の武器でインクリプスに攻撃をし、騎士はヴィクトリアにかけられた術式を解くため解析を始めた。


「アイリス…………助かったのね。月の海に行ったのね、それで王女様のリバースも同時に解けてしまったと。でもごめんなさいね、力は貸せない。」


「そう、なら、捕まえて言うことを聞かす。でもその前に教えて。貴方は前に私はルフの里の生き残りって言ったよね?それはどういう意味なの、ルフの里って一体何?」


「ん………………ヴィクトリア様は気がついてると思ってたけど、半信半疑って感じです?まぁ、気になるのなら故郷に戻ってみるといいわ。後は自分で調べなさい。」


「分かった。なら後は、捕まえるだけ!!」


アイリスは装備から魔力を噴射すると同時に地面を強く蹴り上げインクリプスに突撃した。引き金を引き撃ち出された銃弾をインクリプスは魔力の放出で全て弾き、距離を詰めたアイリスは術式で強化された短剣で斬りかかる。

それを躱したインクリプスはこの隙に逃走しようと経路を確認するが、逃げられそうな場所はみな騎士団により塞がれていた。


「くそっ!!」


「観念して同行して、力を貸してください。」


「そんなの、してやるものかよ!人間に手を貸すなど、何があっても絶対にせんわ!」


激昂したインクリプスはアイリスに襲いかかる。

アイリスは防壁を全展開し攻撃に耐える。しかし、インクリプスの一撃一撃の威力も高く、長くは持ちそうにない。

ヴィクトリアにかけられた拘束術式の解除もまだしばらくかかりそうだ。


インクリプスの魔力がアイリスの護りを侵食する。

そしてついにアイリスを守る魔術防壁が壊された。

インクリプスは1歩踏み込み、アイリスは1歩後退する。気休めだがやらないよりはいいと考えたアイリスはインクリプスに錯乱術式を付与した。


インクリプスは動きを止め、頭を抱えた。アイリスの狙い通り混乱しているようだ。だがこれも数秒しか持たないだろう。


「あぁぁ……あああぁ……あああああああああああああ!!!!!!!!」


インクリプスは発狂し、周囲に強大な魔力を放った。

その魔力にあてられたアイリスらはその場に倒れ込み今にも意識を失いそうだ。


放たれた魔力は半壊状態だった建物にとどめを指し、天井が崩れ始めた。

その瓦礫は運悪くアイリスの真上にも落下してきており、それに気づいた者らは血相を変えた。


誰もが何もできず、瓦礫はアイリスのいた場所に落下した。

皆アイリスの生存を諦めかけた時、土煙が薄くなり、アイリスの影が垣間見えた。

そして瓦礫の下にはインクリプスの姿があった。彼女の身体は完全に押しつぶされてしまい、助けることはできないだろう。


インクリプスはアイリスに目線を向け、涙を流した。


「黒泥に沈みかけていたと思ったら、急に……貴方の声が聞こえてね……。混乱の魔術のお陰でなんとか這い上がれたと思ったら、貴方が死にそうになってるんですもの……心臓に……悪いわ……。全く……母親というものは……こんなにも……………………。」


インクリプスの生命活動が終わったことを感じ取ったアイリスは彼女の涙を拭い、一礼をして騎士団の元へ合流した。


あれ程冷酷な表情をしていた女は笑みを浮かべていた。それは母が娘に向けるような、温かな笑顔だった。

読んでくださりありがとうございました。

次回もよろしくお願いします。

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