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リバース  作者: √k
34/41

王女

長い廊下が続いている。

夕日の光が窓から入り込み、辺りを赤く染める。


「ここは……校舎……?」


そこは改装前のウィルミナル魔法魔術学校だった。

今とは違う懐かしい光景を目にし、アイリスは胸を締め付けられる思いに駆られた。

周りには誰もおらず、アイリス1人だけがぽつりと立ち尽くしていた。


終わりの見えない廊下をとぼとぼと歩きだした。

自分の息遣いと足音以外何も聞こえない空間はひどく落ち着く。

誰の姿も見えないことが普通であるかのようにアイリスはただまっすぐに進み続ける。


さらに歩みを進めると、ふと、いつの間にか目の前にはCJの姿があった。

CJは背を向け、アイリスと同じ速度で歩き続ける。

その表情は窺うこともできず、お互い一言も発することなく時が過ぎていく。


気がつくと2人は階段の前に立っていた。

CJは階段を上り始め、アイリスもそれに続き上ろうとするがなぜか脚が動かない。

呼び止めようとするが声も出ず、2人の距離は徐々に広がっていく─────。



朧気な意識の中、瞼を開けると見覚えのある天井が視界に飛び込んできた。

辺りを見回し、自分が病院の病床に寝ていることを確認した。

窓からは初夏の暖かい風が流れ込んできており、陽光の射し込む角度から昼頃であることが窺える。


狭い個室にはアイリス以外に人はいなかった。

誰か呼ぼうと起き上がろうとするが全身に力が入らず、しばらく様子を見ることにした。


数時間が経ち空が赤くなり始めた頃、扉を叩く音が聞こえ、アイリスは警戒し扉を注視する。

扉が開いた瞬間に何が起きても対応できるよう攻撃の体勢を取る。


「待て待て、そう構えるな。私だ。」


扉の隙間から知っている声が聞こえ警戒を緩める。

入室してきた声の主はウィルミナル騎士団総騎士長のヴィクトリア・カリバーンだった。


今まで数回挨拶をする程度しか言葉を交わしたことのなかった相手、まして国の重鎮となる人物に対して、アイリスの態度は無意識に堅苦しくなってしまった。


「身体の方はもう大丈夫のようだな。安心した。目覚めたばかりで悪いが、最後の記憶はどのようなものだ。」


霧を払うかのように記憶を手繰り寄せ、あの日の出来事を徐々に思い出していく。


「たしか……インクリプスを捕縛するために北の山脈に行って、戦闘になって……それから………………っ!!!

皆は……CJはどうなったんですか!!!!」


アイリスは動かなかった身体を無理やり起こしヴィクトリアにしがみつく。

その拍子に僅かに傷が開きそうになったようで、左肩に激痛が走った。

ヴィクトリアはアイリスを支えゆっくりと横にさせた。


「まだ安静にしていないとだめだ。毒で苦しんでいた者達は私の知り合いに頼んで解毒してもらった。今は容態も安定しこの病院で寝ている。CJのことなら、君が目を覚ましたら説明しようと思っていた。少々長くなるだろうから身体がきつくなったら言え、いいな?」


そう言い、ヴィクトリアは昔話を始めた。



───────17年前、ウィルミナル国王ルゥル・ウィルミナルと王妃レイラ・ウィルミナルの間に1人の子が誕生した。

2人はその子にCJと名付け、寵愛することを誓った。

その甲斐もあってか、子はすくすくと育ち花のように可愛らしい少女へと成長した。


しかし、とある問題があった。

王女は非常にひねた性格をしていたのだ。

勉学を放り出し城を抜け出しては町に出て遊び回り、日が暮れてから城へ戻る毎日。それを探し回る兵も言うことを全く聞いてくれないと悩む王と王妃も手を焼いていた。


それだけならまだ良かった。

だが、日に日に王女の性格は悪辣ものになっていった。

窃盗、器物損壊、暴行など、一国の王女どころか人としてとても賞賛できない言動を続けていた。


両親はそんな娘にどのように接すれば良いか悩み、言動の理由を尋ねてみることにした。結果、2人は頭を抱えることとなった。


「面白そうだから。人が困ってるの見るのって落ち着くの。」


怒鳴り叱ることは逆効果になるのではないかと考えた王と王妃は決して強い言葉は使わず、いけないことなのだと理解してもらおうと時間をかけ言葉を尽くした。

それでも改心することなく、その後も王女の非道は悪化していった。


困り果てた王と王妃はある者に助力を仰いだ。

その者、七大魔術師が1人〈時間の魔術師〉、名をセオドア・フォース・レオンハルトという。


「分かった。理解してもらえるよう何か方法を考えてみるよ。」


その言葉に2人は安堵した。これでようやく娘の悪癖が直ると。

しかし、最大の事件が起きてしまった。


王と王妃がセオドアに相談してから数週間が過ぎた頃、王女の悪行は誰の手にも負えない程になっていた。両親は熟考の末、娘を部屋に軟禁することにした。


そんなある日の夜。なかなか寝付けなかった王は中庭の椅子に座り、夜風に当たっていた。

涼しい風が吹き抜け、日々の業務によって疲れ強ばった身体から力が抜ける。


しばらく満天の星空を眺め、肌寒く感じ始めた王は寝室に戻ろうと椅子から立ち上がった。

その時、背後の木陰に気配を感じ振り向いた。だが、暗すぎるため顔どころか誰かがいるのかすら確認できない。

持っていたランプを持ち上げ視界の先を照らす。


「気のせいか……。」


そう胸を撫で下ろした瞬間、背中から胸にかけて鋭く重い痛みが走った。

王ははずみでよろけ、その場に倒れ込む。

恐る恐る胸に手を当てると、ぽっかりと穴が開いていた。それは剣や槍や矢によるものではなく、魔術によって開けられた穴であることがすぐに分かった。


「わた、し、は、まだ…………ぁ……………………。」


そこで王は事切れた。

翌朝、寝室に姿のない王を心配した王妃が中庭に探しに出た時に王は発見された。

そして、殺した犯人が王女であることもすぐに判明した。


これを受け、王妃とヴィクトリア、そしてセオドアは固く閉ざされた牢獄のような場所に王女を拘束した。


その後、王女の対処法を模索していたセオドアが失われた魔法、運命魔法による生得属性変転現象を人為的に起こす方法を突き止めた。それにより王女はリバースされ、同時に、リバースを解くきっかけを生まないようセオドアの計らいにより今までの記憶のほとんどを封印した。

これにより、CJ・ウィルミナルは誰にでも優しく常に他者を思いやる心を持った理想の王女となった─────。


ヴィクトリアの話はアイリスの心に重くのしかかり表情をより曇らせた。

今まで共に過ごしてきた友の姿が本来のものではなく、かけ離れた本性があると知れば驚きもするだろう。


「それは、今までの言葉や表情は全て、嘘だったってことですか…………?」


「全てかどうかは知らんが、本来のCJからすれば、お前と過ごした中での言動には己でも吐き気のするような嘘があったかもしれん。」


「そう、ですか。」


「ではな。まずは回復に努めろ。その後に話がある。」


それだけ言い残しヴィクトリアは部屋から出ていった。

再び自分1人だけとなった静かな病室で、アイリスは長いため息をついた。

自分はこれからどうなって、どうしていけば良いのか。そんなことを考えながら、日が傾くのを眺めていた。

読んでくださりありがとうございました。

次回もよろしくお願いします。

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