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リバース  作者: √k
33/41

FLY ME TO THE MOON

「これ、リバースだ……。誰か、変転研究室の者はいるか!」


CJの鬼気迫る声が森に響く。

それを聞きつけ、数名の魔術師がアイリスの傍らにしゃがみ込んでいるCJに駆け寄る。


「リバースの進行を遅らせる、または解除する方法はある?」


「1つだけ、解除する方法があります。しかし、未だ研究途中であるため確実性に欠けるものですが……。」


「それでもいい。今は一刻を争う状況だから。少しでも可能性があるなら試したい。教えて。」


「分かりました。月の海の底に"月″と呼ばれるエネルギー物体が存在することが判明しています。月は現代の魔法学では解明不可能な物ではありますが、それが放つ光を浴びることによりリバースの効果が緩和されたという研究結果があります。」


つまり、アイリスを月の海の底に連れていけば助かる可能性がある。そう希望を抱いたCJの脳裏にそれを阻む1つの障害の存在が過ぎる。


「でも今の時間帯は列車が動いていない。飛空挺の準備にも時間がかかる。アイリスの状態を診るにもうそんなに猶予はない……。」


数秒の熟考の末、決断を下す。


「アイク、たぶんこの中で1番の持久力と瞬足を持つのはあなた。今から鉄道管理局まで走って局長を起こして南西方面行きの列車を待機させるよう要請してきて!」


「分かった!」


指示を受け、瞬きの間にアイクは姿を消した。


エレンと他数名の騎士科と魔法科の4年生を率いてCJは駅へと向かう。

アイリスのことは騎士科の者に背負うよう頼み、他は城に戻り待機の指示を出した。


疲弊した身体に鞭を打ちCJは先を急ぐ。

─────ただ1人の友を救うために。


数時間後、CJらはやっと駅に到着した。

線路にはすぐに発車できる状態の列車が待機していた。


「お疲れ様です、早く乗って下さい!あとは出発するだけになってるので!」


先に到着し列車を手配してくれていたアイクが出迎えた。

皆は急いで乗り込み、それを確認した運転士は列車を発車させた。


「近くなったら起こすからお前は少し寝ていろ。それではアイリスを助けたとてお前が持たんぞ?」


「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて……。」


エレンの心遣いに感謝し、CJは列車の走行音を遠くに感じながら眠りに落ちた。




夢を見た。

それはひどく懐かしく、甚く幸せな、有り得たかもしれない現在(いま)

幸せなのに、辛い。楽しいのに、苦しい。

夢の自分は周りの友につられて笑みを零す。その笑顔が本物であると徐々に鮮明に理解していくほどに、その胸が締め付けられ、感情が崩れていく。

これは夢なのだと理解していながらも、一時でも長くその理想郷に留まろうと友に手を伸ばし笑みを保ち続ける。

しかし、その夢は永遠など無いと、残酷にも突きつけてくる。

そう、これは夢なのだ。既に叶わぬものだと解っていながら見続ける、見させられ続ける幸せほど、不幸なものは無いだろう。


「おい、着いたぞ。」


「ありがとうございます。」


身体を揺らされる感覚と担任教師の声でCJは目を覚ました。

降りた駅は以前合宿の時にも訪れた終点だった。

その後近隣の数軒の民家から馬を借り、CJらは急ぎ湖へ向かった。

その間にもアイリスの容態は悪化していき、険しい山道を走る馬に揺られ続けとても苦しそうだ。


「耐えてアイリス、もう少しだからっ!」


空が白み始めた頃、一同は目的地に辿り着いた。

人も馬も疲弊しきり、覚束無い足取りで水際に近づく。


「色々ありすぎて考えてなかったけど、これ、どうやって底まで行くの……?」


「待っていろ。私が道を作る。」


CJがふと脳裏に過ぎった疑問を呟き、それを聞いたエレンが前に出る。

エレンは地に膝をつき、魔法陣を展開する。

それに呼応するように湖が割れ、底の地面が顕になった。


「私はここに留まり術式を維持する。早く行ってこい。」


「ありがとうございます。騎士科の者はエレン先生の護衛に付いて、他は着いてきて。」


CJは足元に気を配りながら底へと降りていく。それに続きアイリスを背負ったアイクと魔法科の生徒が進む。

水の壁が両側に聳え、徐々に水面が上へ上へと遠のいていく。

足元の岩は濡れており足を踏み外しそうになる。


「アイク、大丈夫!?貴方は特に足元に気をつけてよ!」


「分かった。俺は大丈夫なんだが、アイリスの様子がもう限界に近い。まだ月は見えないのか?」


「もう少しで底に着く!安全に急ごう!」


CJは岩肌を蹴り水底に着地する。そしてアイリスに負担がかからぬよう、後ろを着いてきたアイクに手を貸し、アイクも底に足を付けた。

後続が下り終えたのを確認し先を急ぐ。


底は陽光がほとんど届かず薄暗い。

そのため月を見つけるのは思いのほか容易かった。

月は眩い程の光を放ち、異質な存在感を醸し出していた。

一同は恐る恐る近寄り、距離を取り立ち止まる。


「そうか、なんで合宿の時に気づかなかったんだろう。ここは龍穴なんだ。」


「りゅうけつ……、なんだそれは?」


「龍脈を通ってきた魔力の噴出口みたいなものかな。たぶん、何万年も前から蓄積され続けてきたんだろうね。私程度の目では全てを認識できない程の魔力がここにはある。確かに、これの前では呪いなんて無意味だろうね。」


月を注視したままアイクの質問に答えたCJはその後身を翻しアイクに近寄る。

どうやらアイリスの様子に変化は無いようだ。


「もう少し様子を見てみよう。エレン先生の体力と魔力が尽きる前に戻らないといけないからそんなに時間はないけど、あと数十分くらいは────。」


その瞬間CJは言い淀み頭を抱え蹲った。

激しい頭痛に襲われ唸り声が響き渡る。


「どうしたCJ!大丈夫か!?」


アイクが呼びかけるも応える余裕がなく、CJはただただ蹲り痛みに耐えていた。


「C……J……?」


その時、今まで意識が無かったアイリスが目を覚ました。そしてそこにはあの時のように頭を抱え蹲る友の姿があった。


「アイリス大丈夫か!?良かった、月の光が効いて────。」


「アイク避けて!!!!!」


アイリスはアイクの肩を力いっぱいに引き、2人はその場に倒れ込んだ。

アイクは驚き、アイリスに目を向ける。


「どうしたアイリス、混乱してるのか?ここは…………。」


事の経緯を説明しようとしてアイクは己に向けられた殺気に気づき、飛び起きると同時にそちらへ身体を向け、構える。


そこにはどす黒く染まった魔力を放つCJが立っていた。


「どうしたんだ、CJ……。なぜ、俺に殺気を向ける……。」


その問いに応えることなく、CJはアイクに向け無数の魔弾を放つ。

アイクはそれを剣で弾きながら後方へ退く。


魔弾の雨が止むと同時にCJの側面にアイリスが魔弾を叩き込む。

が、しかし、CJはそれを無傷で耐え凌ぐ。


アイリスは虚ろな目で眼前の光景を見つめ、震える脚に力を入れる。

瞬きの後、捉えていたCJの姿は消え、腹部に重い蹴りをくらい身体が大きく後方へ飛び退いた。


アイリスは岩壁に叩きつけられ、次の瞬間、左肩に剣が突き刺さった。


「がぁああっっ!!!!」


激痛が走る。

飛び散った自分の血が顔に付く。


「早く死んでくれ。もう邪魔だよ。」


冷たい、冷たい眼がアイリスを見下ろし、冷たい、冷たい声がアイリスの耳を劈く。

リバースにより正常な思考ができないアイリスの意識を残酷な状況がさらに黒く塗りつぶしていく。

自分はここで友に殺され死ぬのだと、そう悟った。


「いい人生だった……。あなたの人生に終わりはない。喜びな。」


「ふふふ、あははははははははははははは。そうね、ちゃーんと、あなたの分も生きてあげるわ。安心なさい。」


「呪いは続く。ありがとう。あなたはそして死ぬでしょう。」


神経を逆撫でするCJの声。

アイリスは最後の痩せ我慢を吐き捨てた。


「私は、アイリス……。ここで生まれ、人間に、貶められた者…………。」


アイリスの意識はそこで途切れた。

その目には何も映さず、その耳には何も聞こえない。


月の光が、「おかえりなさい」と、祝福するばかりだ。

読んでくださりありがとうございました。

次回もよろしくお願いします。

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