寛解
時刻は18時を過ぎ、星明かりのみでは前方が見えない程外は暗くなった。
街灯が並ぶ道を生徒達が往来している。
アイリスは何をするでもなく、只々それを眺めていた。
「人生もこんなふうに行くべき道が灯りで照らされていればどんなにいいか......。」
溜め息に乗せ独り言を零した。
いつもならそろそろCJが夕ご飯を持ってくる時間だ。
アイリスは校地外に続く道へ目線を逸らした。まだCJの姿は見えない。
何を見るでもなく、何を聞くでもなく、視界に入るものを認識せずただ茫然としていると部屋の扉をノックする音が意識をはっきりとさせた。
「すまない、入るぞ。」
「エレン先生......。」
エレンは頭に包帯を巻き、右腕を三角巾で固定していた。
右脚を引き摺りながらゆっくりと歩き、エレンはアイリスの横に腰を下ろした。
「身体はなんともないようだな......。私はこの通り、ボロボロだ。目の前で爆破が起きこれで済んだのは幸運だった。
───────本当にすまなかった。ウィルミナル国最高峰の魔法学校の教師が聞いて呆れるな......。あの程度の───基礎の爆発術式の刻印を感知できなかったとは。いくら謝っても足りないだろう......。本当に、すまなかった、アイリス。」
エレンは膝の下まで深く頭を下げた。
大人が子供の自分に頭を下げ謝罪する姿を見て、アイリスはどうすれば良いか分からず、口を閉じていた。
きっと、生き残ったカータルの生徒一人一人の部屋を回りこのように頭を下げているのだろう。
アイリスは思考を巡らせるが的確な言葉が思い浮かばない。
「たぶん、ダイジーの魔術のせい...かも...しれません。だから............。」
「───────ありがとう。私の生徒達は良い子ばかりだよ。さて、私はそろそろ行くよ。またな、アイリス。」
左手で机の角を掴み、顔を歪ませながらゆっくりとエレンは立ち上がった。
そして右脚を引き摺りながら部屋から出ていった。
「そういえばCJ遅いな。先にお風呂入ってこよう。」
漫然と風呂の支度をし、のらりくらりと風呂場へ向かった。
入浴の時間にはまだ早いため浴場には誰もいない。
「ゆっくり入れるな。」
浴槽には十分な湯が張ってあり、浴場中に大浴場特有の匂いが満ちていた。
髪と身体を丁寧に洗い、湯に浸かる。
長く長い吐息が零れる。
全身の力を抜き天井を見上げる。
足の先から身体が温まっていくのが解る。
目を瞑り深呼吸をする。
暖かい風呂の居心地の良さに眠気を催した頃、浴場の戸が開く音が聞こえた。
1人でのんびり入りたかったのだがやむを得まいと、名残惜しい気持ちを抑えアイリスは立ち上がった。
「あれ、もう上がっちゃうの?」
「………………CJ……。」
「部屋にいなかったからもしかしたらと思って。」
寒そうにこちらに向かい歩いてきたCJは親爺のような吐息を漏らし湯に浸かった。
アイリスは一瞬躊躇った後腰を下ろした。
「………………………………………………………………………………。」
「………………………………………………………………………………。」
長い沈黙が続く。
自身の心音と水音以外何も聞こえない。
深い深呼吸の後CJが口を開いた。
「明日、ちょっと出かけない?ずっと中にいると気が滅入るでしょ。」
「………………………………。」
「─────いいよ無理しなくて。外に出たくなったら、その時教えて……。」
CJは浴槽から出て出口へ向かう。
ペタペタと鳴る足音がアイリスから遠のいていく。
気がつくとアイリスはCJを呼び止めていた。
「CJ、いいよ。明日出かけよう。」
「…………うん、分かった。じゃあ朝の9時に校門前ね!遅れちゃ駄目だよ?あと、部屋にご飯置いといたから。」
CJが退室し再びアイリス1人となった。
膝を抱え深く湯に浸かる。
「いいかげん、立ち直らないと……。」
その後アイリスは逆上せる直前まで風呂に入り続けた。
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