毒と少女
マラソン大会から1夜明け、CJはとても不機嫌そうだ。
「なんで……、なんで、マラソン大会の翌日に普通に授業があるの……?」
CJは全身が筋肉痛で動きが非常にぎこちない。いつもの絢爛とした仕草は欠片もない。
「まぁ、今日の授業は座学のみなんですから助かりましたよ。でも正直、休もうかどうか本気で悩みました。」
もしかしたらフィイは入院が必要になるのではないかとアイリスは思っていたが、そこまでではなさそうな姿を見て安心した。
因みに、昨夜寮に戻ってからアイクとの関係についてCJにしつこく問われたのは言うまでもない。
「あとはしばらくイベントは無いからね、ゆっくりできる……という訳でもない。2ヶ月後には中間試験が待ってるよ。」
ダイジーが微笑みながら言う。
それを聞いたアイリスの表情が曇る。
アイリスは体力と魔術の知識は問題ないが、実践に弱い。
「まずい……練習……しないと……。」
ついこの前までのCJと状況が逆転した。
そっと心の中で徹夜を覚悟したアイリスであった。
「大丈夫だよ、アイリス。今度は私たちがアイリスの力になる番だよ!」
「はい、恩返しをする絶好の機会です!」
CJとフィイがアイリスを励ます。
自分も最後まで付き合うぞと言うように、ダイジーはアイリスの肩を叩く。
「みんな、ありがとう……!!」
アイリスは嬉しさのあまり、席から立ち上がり隣に座るCJに抱きつこうとする。
CJもそれに応え両手を広げる。
腕を広げたアイリスが近づいてくる。
そして、倒れた。
「─────────────────────え?」
何が起きたのか分からず、3人はしばらく呆然と倒れたアイリスを見下ろしていた。
「ァ、アイリス!!!!!!!!!!!!!!」
やっと状況が飲み込め、CJがアイリスを抱き抱える。
それに続きダイジーとフィイも駆け寄る。
アイリスは意識を失っていた。
なぜ急に──────。
3人がアイリスを保健室へ運ぼうと抱えた時、周りにいた生徒達も1人、また1人と倒れだした。
「───────────。」
脳の処理が追いつかない。
何が起きているというのだろうか。
すると、アイリスを抱えていたダイジーも倒れた。
それに続きCJも倒れた。
皆意識が無い。
「なぜ…………。」
フィイは呆然と立ち尽くしていた。
しばらくして多くの医者が校舎へ入ってきた。
倒れた生徒は空き教室へ運ばれ診察を受けている。
無事だった生徒も検査を受け、教室で待機するよう言い渡された。
異常が見られなかったフィイは自分の席でただ時の過ぎるのを待っていた。
きっと先生や医者がなんとかしてくれる。
そう期待して。
1時間程が経ち、エレンが教室に入ってきた。
「今回、生徒らが突如倒れた原因が毒であると分かった。これからこの校舎には騎士団の調査が入る。もし何か聞かれた際は調査に協力してほしい。ここにいる者は各自帰宅し、待機すること。では解散。」
エレンの話が終わり、残った生徒は順次帰り支度を始めた。
フィイも働かない脳を無理やり動かし帰路に着いた。
「どうせ私には何もできない……。それでも────。」
何か少しでも役に立てないか。
王都の医者でも解消できない毒。それほど強力なものを解毒できる魔術は無いのか。
フィイは持っている魔導書を片っ端から読み漁った。
夜は更け、そして日が昇る。
「これしか、ない……。」
フィイが見つけたもの。
それは毒のスペシャリストと呼ばれる1人の魔術師についての記述だった。
どうやらその者は王都近郊の森の奥に住んでいるらしい。
昼間でも薄暗く誰も近寄らない魔の森。
クマを作った目にギリっと力を入れ、フィイは寮を後にした。




