少女
山の麓に小さな村があった。
隣を見ればどこも知っている人しかおらず、子供から老人まで皆仲が良かった。
ある日、村の川辺に赤ん坊が1人流れ着いた。
それを見つけた村長は自分の娘とし、アイリスと名付けた。
アイリスは村の人々の愛を受けすくすくと成長し14歳の活発な少女になった。
村の子供たちと野山を駆け回り、村の畑で採れた野菜を沢山食べ、沢山寝る毎日はアイリスにとってとても幸せな日々だ。
「私、魔法使いになりたい!そしてこの村の皆を幸せにしたいの!」
魔法は誰でも使えるわけではない。専門的な知識と技能が必要だ。そのためには多大な努力をしなくてはならない。高難易度の魔法を使えるようになるためにはそれなりの才能も必要になってくる。
「だめだ。アイリスには難しいことだ。諦めなさい。」
村長は間を置かずにアイリスの願望を否定した。魔法は1歩間違えば死ぬこともある。そんなことをさせたくなかったのだろう。いつまでも幸せでいてほしい。村長は14年間それだけを想いアイリスを育ててきた。
それでもアイリスは諦めなかった。
アイリスの15歳の誕生日、村長は重い腰を上げ魔法を教えることにした。
と言っても村長もそんなに魔法を使えるわけではなく、初歩の簡単なものしか教えられなかった。
だが、それでもアイリスは嬉しかった。
やっと魔法を覚えられる。アイリスは毎日書物を読み漁り、魔法に関する知識を増やしていった。
書物によると魔法は時間、空間、力、物質、精神、生命の6つに大きく分けられるらしい。
アイリスはまず、力魔法の身体強化や物質魔法の熱系魔術や水系魔術を覚えた。
それからは大変な火起こしもしなくて済むようになったし、老人の水汲みも必要なくなった。
アイリスは皆にありがとうと言われるのが嬉しくて、もっと魔法を学びたいと思い、さらに勉学にのめり込んだ。
魔法の種類や効果は書物で学び、使い方は村長が教える。
「アイリス、これくらいでいいんじゃないか?村の皆は十分助かっている。これ以上の難易度は本当に危険が伴う。今覚えている魔法だけで十分だろう。」
魔法を学び始めて半年が過ぎた頃、村長は困っているような焦っているような表情で、アイリスに魔法学はやめるよう言ってきた。
「やめない!もっともっと沢山覚えて、もっと村の役に立ちたいの!お願い、もっと魔法を教えて?」
アイリスがここまで何かに固執するのは今までになかった。村長はその真っ直ぐな瞳を見て、それ以上は止められなかった。
だが初歩の魔法しか使えない村長ではもう教えられない。そのため、村長はある提案をした。
「王都の魔術士団に入る?」
「あぁ、あそこならさらに高難易度の魔法も教えてくれる。その代わり国防に従事しなきゃいけないが。どうだ?」
そんな手段があるとは考えつかなかったアイリスは驚き高揚した。
「少し考える」
その日の夜はなかなか寝付けず、空が青白くなり始めた頃ようやくアイリスは眠れた。