8.プレゼントの真実
私は気持ちを落ち着ける努力をしながらぎこちなく微笑んだ。
「あの、会いに来てくれてありがとうございます。オリス様、お仕事は大丈夫なのですか? お疲れなのでは」
「大丈夫です。仕事の方は目途が立ったので補佐室のメンバーが順番に休みを取ることになっています。なかなか会いに来ることができなくて申し訳ありませんでした。それとカードをありがとうございます。多忙な中でとても励みになりました」
彼の言葉は優しくてやはり自分の考えは冷静さを欠いていた気がする。
「こちらこそカードと……プレゼントをありがとうございました」
オリス様は不安げに私の顔を窺う。
「あの、プレゼントは気に入って頂けましたか? 私は今まで女性に何かを贈るということをしてこなかったので何を選んでいいか分からなくて」
やっぱりプレゼントを選ぶのは慣れていなかっただけだった。それに安心する。
「あの……贈り物には何か……意味があったのでしょうか?」
「意味ですか? 特には? でもエルシャ様に喜んでもらえそうな物を選んだつもりでしたが、気に入らなかったのですね? 申し訳ない……」
オリス様が眉を下げる。その表情は悲しそうで私は慌てて弁解した。
「いえ、あの。贈り物はすごく嬉しかったのです! でも、珍しいものだったので」
「珍しい?」
オリス様は怪訝な顔をした。私は侍女に目配せをして彼から貰った品物を机に並べてもらった。オリス様はその品を見て明らかに動揺している。
「エルシャ様。これは一体?」
彼が選んだ品物のはずなのに明らかに困惑している。
「これはオリス様から頂いたものです。本当にオリス様のお気持ちは嬉しくて、ありがとうございます。でも、あの、私、髑髏の形はあまり得意ではなくて。それと蝶の標本は美しいとは思いますが、その虫全般が苦手で、申し訳ありません。でも、ストールは使わせて頂いています」
私は必死に嬉しい気持ちを伝えようとした。それでも品物に対する感想に嘘を吐くことは出来なかった。オリス様は眉を寄せたまま机の品を一つずつ手に取って眺めた。そしてポツリと呟いた。
「違う……」
「えっ?」
今度は私が首を傾げた。
「これは私が選んだものではない。いくら何でも婚約者に髑髏の置物など選ばない。標本だって頼まれたものでもなければ贈らない。好き嫌いが分かれるものですから。あと、このストールだってあまりにも奇抜過ぎる。一体いつ使うのだ?」
「えっ? でも確かにオリス様のカードと一緒に届いたものなのですが」
オリス様は盛大に頭を抱えた。
「何かの手違いなのかもしれません。エルシャ様。申し訳ない。私が選んだのはガラス製のうさぎの置物と蝶をモチーフにした髪飾り、あと白百合のデザインのストールです。早急に確認します。これは返品しましょう」
「手違い……?」
私は戸惑いを隠せない。それでも彼もこの品はおかしいと思っていると聞いてホッとした。オリス様は私の顔をじっと見つめ真剣な面持ちになった。
「エルシャ様。苦手なものなど手元に置かなくていいのです。あなたは聞き分けがよすぎる。こんなもの受け取れないと突き返してもいいのですよ? これらは普通、女性に贈るものではない。私のすることを何もかも受け入れる必要はないのです。私たちは婚約者だ。嫌なことは我慢せずに伝えてほしい。私はあなたと対等な関係を築きたいと思っている」
オリス様は真っ直ぐに私を見つめきっぱりと言う。彼は私と対等であると言ってくれた。でも…………。私は心にある不安を吐き出した。
「でも、そんな女は……可愛くないでしょう? そんな我儘を言ったら私のことを嫌い……になってしまうのでしょう? オリス様に……嫌われたくなかったの……」
私は唇を戦慄かせ声を絞り出した。オリス様に嫌われたくない。それなら我慢する方を選んでしまう。それにどんなものでもオリス様から貰ったものを手放したくなかった。瞳が潤るんで雫がこぼれ落ちそうになる。
オリス様は目を見開き私をじっと見る。そして破顔した。彼のこんな顔を見るのは初めてだった。驚きすぎて涙が引っ込んでしまった。
「それは? 嫌われたくないというのは、私を好きになってくれたということですか? それならば嬉しいです。それに私があなたを可愛くないと思う事などあり得ない。私はエルシャ様が好きです」
「ええーーーーっ???」
私を好き? オリス様からの思いがけない告白に私は、はしたなくも絶叫してしまった。