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4.簡単に不安は消えません

 彼が私に会いに来るときには必ず白百合の花をくれる。その日も受け取った白百合の花をお気に入りの花瓶に活ければとても満たされた気持ちになった。オリス様は自分にはもったいない人だけど、誠実な彼と共にいたいと思う。私は彼と幸せになりたい。過去二人の縁談相手にここまでの好意を抱いたことはない。いつも「婚約者として上手くやっていかなければ」という義務感が先行して気持ちが追い付くことはなかった。だけどオリス様への気持ちは特別で恋だと自覚している。


 オリス様は二十一歳の時に流行り病で両親をいっぺんに亡くし若くして爵位を継いだ。その時には文官として頭角を現し宰相様が目をかけていた。オリス様が文官を辞め領地へ戻ろうとしたところをラモンおじ様が彼が仕事を辞めてしまうのは惜しいと引き留め説得をした。その代わり領地経営の補佐をする信頼できる人間を紹介し、まだ学園に通っていた弟さんについても継続して通えるように後見と援助を申し出たそうだ。


 それほど彼はラモンおじ様から能力を買われていた。そして見込み通り、彼は現在立派に仕事の成果を上げている。弟さんは去年結婚し領地経営を担っているそうだ。彼は弟さんの幸せを見届けるまでは自分は結婚しないと公言していたが、もういいだろうと縁談が引っ切り無しにきていた。


 オリス様は二十六歳の男盛り、文官でありながら逞しい体躯に秀麗な顔、そしてなにより出世頭だ。表情はあまり変わらず口を引き結んでいることが多いが、軽薄な子息たちとは一線を画して令嬢たちからの人気は高い。私は知らなかったが令嬢たちから多くの秋波を送られている。縁談の数は言わずと知れたことだ。

 それでも彼は仕事を理由に縁談を断っていた。目をかけてくれたラモンおじ様の期待に応えたかったらしい。


 さすがにいつまでも結婚しようとしない彼をラモンおじ様が心配しお父様にその話をしたそうだ。それならばうちの娘はどうですかとなったらしい。ラモンおじ様も私の過去の破談の経緯は全て知っていてずっと心配してくれていた。

 私は世間的には二度も破談になった『破談令嬢』と揶揄されていることもありオリス様とは不釣り合いに見えるだろう。そのことを考えるとオリス様と過ごすことで少しずつ蓄えた自信が萎んでいきそうだ。ずるいと思ったがラモンおじ様に相談してしまった。ラモンおじ様なら絶対に優しく励ましてくれると分かってたのだから。ずるくても彼と一緒にいるために勇気をくれる言葉をかけて欲しかった。


「ラモンおじ様。本当に私でいいのでしょうか?」


「オリスはエルシャを選んだ。だからエルシャは胸を張っていい。私はね、オリスはエルシャのように素直で優しい子がお似合いだと思っている。二人なら必ず幸せになれるさ」


 ラモンおじ様は笑いながらそう言ってくれた。私はまだ自分自身を信じ切れない。だからラモンおじ様の言葉を信じることにした。


「はい。ラモンおじ様。ありがとうございます。私、彼に相応しくなれるように頑張ります」


「そんなに肩の力を入れなくてもいいんだ。オリスは私のせいで仕事一辺倒になってしまったから、これからはエルシャと穏やかな家庭を築いてくれればいうことはない」


 私はおじ様の勧めでオリス様のランチの時間にお弁当を持って訪ねることにした。彼と少しでも一緒に過ごしたいと思ったからだ。もちろん事前にオリス様に手作りに拒否反応がないか聞いてある。前回の婚約者のように手作りは駄目だと言われるのは悲しいので確認済だ。彼は毎回私の作ったサンドイッチを「美味しいです」と完食してくれた。共に過ごす時間が長くなるほど彼を慕う気持ちが大きくなる。


 何事もなく結婚までこの日々が続いていく、そう信じていた。




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