プロローグ. 目覚めると裸で森の中
日の光が、ポカポカと身体を暖める。
心地よい汗が、じわーっと滲み出す。
そよ風が吹き、肌を優しく撫でていく
とても気持ちがいい
とても落ち着く
ずーっとこうしていたいな
学校も、お勉強も、もう疲れた
すー、はー、すーっ
ゆっくりと鼻から息を吸う
口から吐き出して
また鼻から息を吸う
おいしい空気でお腹いっぱいになる。
新鮮な血が、身体中に酸素を運ぶ
ああ、気持ちいいな……
嫌なことも辛いこともぜーんぶ
風とともに流れ去っていく
……一体ここはどこだろう?
こんなに気持ちのいい場所を私は知らない
毎日毎日、景色に気を取られる間も無く、
家と学校と塾を行ったり来たり。
家に帰れば楽しい動画を探して見て
それでもすぐに時間が過ぎ
あっという間に新しい朝が来る。
いつもどこか疲れてる。
毎朝ここで休みたいな。
それだけでいい。
それだけで私は、まだまだ生きていける気がする
私はゆっくりと目を開ける。
さんさんと輝く太陽の、まぶしい光が飛び込んできて、
思わず目を細める。
「え、」
私は絶句した。思わず声が漏れる
(どこ、ここ?)
視界を埋め尽くすのは、色彩豊かなみどり色
明るい緑、黄色っぽい緑、暗いみどり、青っぽい緑、
世界中の全ての緑色を集めたきたような色。
そうだ、森だ
森林だ
信じられないほどの大森林だ。
はるか高くそびえ立つ、一回り5メートル以上の巨大な木々
見たことがないほど歪んだ木、大きな葉っぱ、綺麗な花。
見たことがない木ばかりだ。
(え??、なんで私、こんなところに??)
風になびかれた葉っぱが擦れ合い
ザァァ……ザァァ……という。幻想的な森の音を奏でている。
あれ??
なんだ??
何かがおかしい
身体が異様にくすぐったいのだ
風が吹き抜けるたび、
さわさわさわ、と
身体中をなでられる感覚。
何かが足りない、あるべきものが。
(あれ……?)
(服が、ない)
目が覚めると私は、生まれたままの姿で、見知らぬ森の中で寝ころんでいたのだ
(はぇっ!?)
私は慌てて自分の身体を手で隠す
(なっ、なんで私、素っ裸なの?)
(なんでこんな森の中に?)
(なんでこんな状態で寝てたの?)
私は必死に記憶をたどる
私は、ついさっきまで家にいた。
いつもみたいに朝ごはんを食べて、
いつもみたいにランドセルを背負って、
いつもみたいに学校へ……
そこから先が思い出せないのだ……
私が一人でこんなところに、ましてや裸で来るはずもない。
じゃあ、なんで?
誰かに連れてこられたのだろうか?
でも、
誰かって、誰だ?
まさか、変態に誘拐されたとか!?
私は身体を起こして、周囲を見渡す。
誰もいない。
人が行き来した痕跡もない。
もちろん、私がここまで来た痕跡もない
足元は草が生い茂り、地面はひんやりと冷たく、湿っている。
周りを見渡しても、辺り一面緑ばかり、高い木、曲がった木、太った木が複雑に絡み合い、視界一面を覆っている。
(ここはどこ?誰かいないの?)
こわくて身体が震えだす
(お父さん、お母さん)
(誰でもいいから)
(誰でもいいから、私を助けて下さい……)
太陽の光が肌を焼く。
嫌な汗が滲みだす
鼓動が早くなる
喉が渇いてくる
トイレにも行きたい
でも、私には何もない、服だけでなく、道具も、力も、知識も、なんにもない。
ただでさえ、お父さんとお母さんにご飯やお金を貰わないと生きられない、か弱い小学4年生だ。
そんな私が、こんな森の中で一人、3日として生きられる筈がない。
誰かに助けて貰わないと、私はすぐに死ぬ。
このまま一人でここに居ても、誰も助けに来ない限り、私は飢え死ぬだけだろう。
とにかく、動がなければいけない。
私は草むらから立ち上がる。
そして私は立ち尽くす。
どこを向いても、同じような森模様ばかり。
どの方向へ向かうべきだろうか?
私は必死に考える。
そうだ、
とにかく高い所へいこう。遠くまで見渡せるかもしれない
私は、近くの木に、拾った石で、メッセージを書き残す
ーーー
たすけてください
はるみやことね 10さいです
そうなんしました
またここにもどります
ーーー
そして私は覚悟を決めて、震える裸足で、小さな一歩を踏み出した。