第05話 弟子
目の前にはSランク冒険者のグレイスさんがいた。
「や、やぁ奇遇だな、アグマ。私も最近この宿屋に住むことにしたんだ。」とぎこちない笑顔でそう答える。
こちらとしては嬉しい限りだ。Sランク冒険者など会える日の方が少ないし、話すなんてもってのほかだ。
「グレイスさんは豪邸とかに住んでるのかと思っていました。」と言うと
「まぁ、実家は豪邸ではあるが、私には窮屈でな。普段は野宿とか、宿屋を借りたりしている。」と答える。
なんかカッコいいな。権力に甘えないと言うか、実力で成り上がってきた感じがすごい。
「グレイスさんって努力家なんですね、すごいです!」と言った途端にグレイスさんの顔が赤くなる。
「そうか、なんか褒められ慣れてないから照れるな。」とグレイスさんが照れくさそうに答える。
そのあとも色々とご飯を食べながら話した。
ちなみにグレイスさんの部屋は僕の隣らしい。エリさんがまとめて掃除しやすいからと言う理由らしい。なるほど。
部屋に戻る階段のところでグレイスさんから話しかけられる。
「アグマ、少し話したいことがあるから私の部屋に来ないか?」
「分かりました。」そう言って僕の部屋の隣の302号室に入った。
「お、お邪魔します。」少しドキドキする。女の人の部屋に入るのは初めてだし、幼馴染のエリスとは違った感じだ。
「そこら辺にかけてくれ。」
とグレイスに言われたが、どこに座ろうか。とりあえず目の前の椅子に座った。ベットの上になるのは失礼だろう。
グレイスさんはベットに腰掛けたまま話し始める。
「単刀直入に言う。私の弟子にならないか?」
「え?」驚いた。まさか、Sランクの弟子にしてもらえるなんて、こんなにいいことはない。是非お願いしたい。
「はい!是非お願いします!」と言った。
「本当か!良かった。断られたらどうしようかと。」安堵したような顔でグレイスさんが言う。
「こんなFランクの僕を弟子にしてくれてありがとうございます!」ほんとにありがたい。
「私からもありがとう。君を最強の魔剣士に育てるよ。まぁ私は剣しか教えられないがな笑」
「それじゃあ明日暇なら一緒に修行しようか。」早速誘われた。
「是非お願いします!明日は暇です!」最高じゃないか。
「そうか、それならまた明日な。」とグレイスさんが嬉しそうに言う。僕も嬉しい。
「では、失礼します。おやすみなさい。」そう言って部屋を出る。
「あぁ、おやすみ。」と笑みを浮かべ、手を軽く振りながら言ってきた。うぉ!可愛い。
明日が楽しみで今日は寝れるか不安だ笑。
そんなことを思いながら僕は自分の部屋に戻った。
次の日、僕は朝ご飯をいただいたあと、グレイスさんと一緒に訓練をしに行った。
その行き先はなんと、グレイスさんの家だった。
「ここが私の家だ。そんな自慢できる場所ではないが訓練には最適だと思うぞ。」と照れくさそうに言ってきた。
「グレイスお嬢様、おかえりなさいませ。」と家の玄関から何十人もの召使いや、騎士が出てくる。
うん、これのどこが自慢できない場所だって?普通じゃないんよ。僕は呆気に取られた。
「お邪魔します。」なんかほんとにお邪魔してる気分だ。場違いなんだよな。俺が。
しばらく家の中を歩くと庭らしきものが見えた。いや家の中をしばらく歩くことがおかしいのだが、ツッコまないでおこう。
「ここが訓練場だ。ここは魔法障壁も張ってあるからある程度の魔法ならば撃っても大丈夫だぞ!」すごい笑顔で言ってきた。この家は一体なんなんだ。
「ほらっ、受け取れ。」そう言ってグレイスさんから木の剣を渡された。
「まずはお前の実力を確かめる。本気でこい。」グレイスさんは剣を下に向け、両手を持ち手の先に置き、いかにも剣聖のような姿を見せてきた。
さぁ、いくぞ。
(付与魔法・火、縮地。)一気に間合いを詰める。
「剣撃!」一気に斬り裂く。
が受け止められる。まだまだ!
縮地で回り込み、後ろから狙う。くそ!また受け止められた。こうなったら。
(ライトボール!ライトボール!)ライトボールを乱発して視界を奪う。ライトボールの背後から狙う。
グレイスさんがライトボールを切った!今だ!
縮地で一気に距離を詰めて斬りかかるが、次の瞬間腹に痛みが走る。殴られたのか、そんなことを考える暇もなく意識を失った。
「はっ!」目が覚めるとベットで寝ていた。
「アグマ、大丈夫か?勢いが強すぎたようだ。」そうか、僕は殴られたのか。
「良い戦い方だし、無詠唱の考え方を学んでいるのもいいな。これから鍛えればもっと強くなるぞ。」と嬉しいそうに言う。
「さっ、これから剣についてのある豆知識を教えよう。」
豆知識?なんだろうか。
「まず木の剣があるだろう?それを鉄の剣で切るとどうなる?」
「えっ?木の剣が切れるでしょう。」普通そうだろう。何が言いたいのだろうか。
「じゃあやってみるぞ。」そう言ってグレイスさんは左手に持った木の剣を右手に持った鉄の剣で斬りつける。
するとなんと鉄の剣の方が折れた。訳がわからない。常識を目の前で破られた。
「な、なんですか今の?」驚きを隠せない。
「これはな、魔力で覆っているんだ。付与魔法とかとは違う。私は魔力が0というわけではないからな。このように魔力を覆うことで折れなくできる。」
「しかし、魔力の形が悪ければ、、」そう言って今度は僕を斬りつけてきた!
「いたっ!くない?」剣が当たってるはずなのに痛くない。
「今私は剣を丸く覆った。だから痛くないんだ。このように覆う魔力の形で斬れ味も変わってくる。」
なるほどな、難しそうだな。
「物は試しだ、今日からできるまでこれを意識するんだ。いいな?」
「分かりました!」早速、剣に魔力を覆ってみるが、うまく覆えない、あれ?あれ?
そうこうしてるうちに僕の魔力、MPが先に切れてしまった。身体から力が抜ける。
「おいおい、いきなり飛ばしすぎだ。今日はもう休め。ここで泊まっていっていいから。」
そうせざるを得ないみたいだ。身体が動かない。
「じゃあ後で飯の時に呼ぶからな。少し寝ておけ。」そうしてグレイスさんは部屋を出て行った。
「あれ?てか女の人の家に泊まるの初めてだ。」そう考えるとドキドキしてきた。けど召使い達がいるからそんな気分も薄れる。少し寝るか。
そうして僕は目を瞑った。
グレイスさんに起こされて僕は目を覚ました。夕食ができたらしい。
「案内するからついて来て。」言われるがまま僕はついて行った。
案内されたのは大きな部屋の中心に白いクロスのひかれた長テーブルがあり、その上に料理がのっている部屋だ。周りには召使いがいる。料理は3人分ある。僕とグレイスさんが対面で座る。
僕らを結んで三角形になるところにも食事が置いてある。誰がくるのだろうか。
「ガチャン。」
大きな扉が開き、人が入ってくる。秘書のような人を連れて。威厳のある男の人だった。歳は50〜60だろうか、髭もいい感じに生えている。
「娘よ、待たせたな。」
なるほど、娘ね、、、
グレイスさんのお父さんか!挨拶しないと
「こんにちは、いつもグレイスさんにお世話になっています。」頭が下がながら言う。
「君は娘とどういう関係なのかね?」
衝撃の一言が飛び込んできた。どういう関係?うーむ。
「師匠と弟子の関係です。」まだそんな関係ではないだろうが、ここは言い切っておこう。
「そうか、よかった、そんな関係か。」
ん?よかった?どゆこと?
「いやいや、娘は結婚相手が決まっているからな、変な虫が付いては困るんだよ。」と告げられる。
へぇ!結婚相手決まってるのか、まぁ貴族みたいなもんだからな。
「私はあんな貧弱野郎と付き合う気は無いからな!」グレイスさんが怒った口調で言う。
いや、グレイスさんより強い男なんていないぞ笑。
「お前より強い男なんか探す方が大変なんだぞ?」父も言う。そうだろうな。
「とりあえず、あんな奴とは結婚しないからな。」強く言い切る。
「とりあえず食べようか。」父がそう言う。
その後、気まずい空気の中、食事を食べ終えた。きっと美味しいのだろうが味は感じなかった。気まずすぎる!!
部屋に戻ったあと、グレイスさんが来た。
「先程はすまなかったな。あれは気にしないでくれ。」申し訳なさそうに言う。
「いえ、大丈夫ですよ!僕は結婚とかあまり分かりませんけど、嫌なものは無理しなくていいと思いますよ。」
「ありがとう。それじゃあまた明日な。おやすみ。」そう言って部屋を出て行った。
それにしても寝巻き姿可愛いかったな。そんなことを思いながら眠った。