99.自慢の父親、自慢の息子
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「行ってらっしゃい!」
「村のことは任せてください。」
「たくさんのお土産話、期待してますね。」
「話だけじゃなく、土産も期待しとるぞい!」
「村のこと、よろしくな。じゃ、行ってきます!」
村人たちの見送りを受け、朝早く俺たちは出発した。と言っても、ここからオルテア王国の手前までは来た時と同じようにシリウスに運んでもらう。全く開拓のされていない森の中を馬車で進むとなると何日かかるかわからないし、獣や魔物などの危険も増すからね。
ヘイディスさんやダンテさんたち『暁』のメンバーによると、このあたり一帯の森は周辺諸国から「暗黒の森」と呼ばれているらしい。なんちゅう物騒な名前をつけるんだと突っ込みたくなったが、実際にこの辺りは人の出入りもなく未開拓の原生林、さらに森の向こうは魔族領ということでそう呼ばれるようになったとか。まあ周辺に住む人間からしたら恐怖の森だろうし、そう呼びたくなるのもわからんでもない。実際にオルトロスや吸血鬼、果てはアラクネまでいたからな。
そういうわけで、暗黒の森は龍の力でひとっ飛び、人里近くから馬車で移動しようということになったのだ。
アヤナミの魔法で馬を眠らせ、馬車に乗り込む。今回は詰めればみんな馬車に乗れるのだが、『暁』メンバーは「もう一度龍の背中に乗りたい!!」というのでシリウスの背中に。そしてゼノも「僕も乗ってみたいです。」ということでシリウスの背中に。ヘイディスさんも乗りたいかな?と思って誘ってはみたが、馬と荷物が気になるということで下働きの二人と共に馬車へ。運動神経も良いあの六人なら滑り落ちたりする心配もないだろうということで、俺とアヤナミも馬車にお邪魔することにした。
飛行中は、上からの「すげえ!」や「フウゥゥゥウウ!!!」という叫び声を聞きながらヘイディスさんといろいろな話をした。下働きの二人も食い入るように下を眺めているが、雇い主の手前かそこまではしゃいだりはしなかった。もしかして、シリウスの背中に乗ってみたかったかな?もし次に機会がある時は誘ってみよう。
ヘイディスさんはオルテア王国でオルディス商会という商会に努めている。父親であるオルディス氏が会頭を務め、自分は次期会頭になる予定。といっても世代交代は当分先で、自分はまだ若造なためこれから商会の様々な仕事をしてノウハウを身に付けて行くんだとか。父曰く、「下の者の気持ちを知らぬものが上に立っても碌なことがない。息子だからと言って甘やかすつもりはない。」らしい。世襲制の家業の割にずいぶんと進んだ考えの人なんだな。こういう身内稼業って、ついつい甘やかして碌に能力もない息子に実権を握らせたり、現場に出たこともないような坊ちゃんが役員になってたりするんだけど。中世ヨーロッパくらいの文明度でこういう下積みの大切さをわかっているなんて、地球の先進国にも負けていない立派な考えの持ち主だ。
「すばらしいお父上ですね。」
「いやいや、仕事の鬼なもので……そのおかげで商会の方は今のところ順調ですが。」
そういいつつも、やはり父親を褒められると悪い気はしないらしい。頬を緩め、照れくさそうに笑っていた。
「お店では何を取り扱っているんですか?」
「主力製品は魔道具と雑貨ですね。そのほかにも規模は小さいですが食品から素材の流通なども手掛けております。街についた際にはぜひお店の方にもお立ち寄りください。」
「すごいですね、ぜひお願いします。」
そうこうしているうちに、暗黒の森の入り口付近に到着した。
シリウスはゆっくりと馬車を下ろし、少しの揺れと共に馬車は無事着陸した。
「やっぱすげぇよな!こんな早く飛ぶなんて!」
「あんなに大きかった山々があっという間に小さくなったな。」
「僕、初めて空を飛びました。」
「ハハハ、坊主、大抵の人間は空なんて飛ぶ機会ねぇよ!」
「また龍の背に乗れるなんて……!」
「すごすぎてあっという間だったぜ。」
シリウスの背から降りてきた護衛隊とゼノは、興奮冷めやらぬといった感じで話している。どうやらすっかり打ち解けたらしい。
スルスルと人間の姿に戻るシリウスに「「「「「龍様、ありがとうございましたっ!!!」」」」」と口をそろえてお礼を言う護衛隊。ゼノは人間の姿になったシリウスに駆け寄った。
「すごいです!川の形や地形があんなにハッキリ……マッピングにも役立ちます。シリウスさん、ありがとうございました。」
「お役に立てて幸いです。」
興奮した様子で、しかし丁寧にぺこりと頭を下げてお礼を言うゼノに、いつもの微笑みを浮かべるシリウス。
初めての空の旅、しかも龍の背に乗ったということでさぞ浮かれているだろうと思っていたが、マッピングって、そんなことまで考えてたのか。好奇心旺盛なだけじゃない。やっぱりこの子は思慮深く賢い子なんだな。ガルクとビオラも自慢の息子だろう。
自慢の父親に自慢の息子、か。
地球では病弱で入退院を繰り返してばかりだった俺は、何か一つでも家族にとって自慢になるようなことが出来ただろうか。
ほんのちょっとだけセンチメンタルな気分になってしまった俺だった。