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95.客人

 シリウスの背に乗り小一時間ほど。村の門が見えてきた。

 さすがにこの巨体はいろいろと不便が出るし、外の人間をいきなり敷地に入れるわけにもいかないので少し手前の広めの場所で降りる。最小限の揺れと衝撃で優雅に着地したシリウスは、俺たちを背中から降ろすとスルスルと人間の姿に戻っていった。「龍様、ありがとうございます!!!」と揃って頭を下げる彼らに「お気になさらず、我が主の命ですので。」といつもの調子を一切崩さない。さすが有能執事、どんな時でも誰が相手でも動じないその心は見習いたいものだ。

 村に入る前に、一つ注意をしておく、うちの村はいろいろ特殊だからな。人間以外にもエルフやドワーフなどたくさんの種族がいる。そう言うと、ヘイディスさんはにっこりと笑った。


「大丈夫ですよ。私の国でも人族以外の者が普通に暮らしておりました。仕事柄そういった方々とも関りを持ちますし、他国の者に比べて我々は慣れております。」


 ヘイディスさんの言葉に全員が頷く。これなら大丈夫そうだな。

 俺を先頭に村の入口の方へ。護衛隊と一緒に歩こうかと思ったが、命の恩人に歩かせるわけにはいかないと半ば無理やり馬車に乗せられてしまった。代わりに下働きの若者二人が歩くことに。なんだか申し訳ない。

 道案内のためにヘイディスさんのいる御者席に座り、しばらく進むと見慣れた村の入り口が見えてきた。今日の護衛はジェイクとイヴァンか。屈強な二人に向かって手を振る。


「おーい!ただいま!」

「村長!こんな時間までどちらに!?それにその馬車……」


 馬車の上から手を振る俺に気が付いた二人が駆け寄ってくる。と同時に、馬車の周りを歩いていた護衛隊が「なっ!?」と小さく息をのむ。


「お、鬼!?」

「鬼が二体!?」


 武器を構えだす護衛隊に慌てて馬車から飛び降りる。彼等は鬼じゃなくて鬼人で、さっきも言ったけどみんなここの大事な仲間だから。危ないことはないから大丈夫。そう説明するとすぐに落ち着いてくれた。


「村長!今までどちらに?そしてこの者たちは……?」

「みんな心配してましたよ。」

「悪かったな。ちょっといろいろあってさ。あ、彼らはお客さん。俺たちの荷運びをやってくれたんだ。」


 そういって馬車の中のオルトロスをみせる。山のように積み重なるオルトロスの死体にさすがの二人も驚愕していた。

 日も暮れてきたし、とりあえず村の中へ運び込もう。俺を先頭に馬車がゆっくりと村の敷地を進みだす。

 みんな見慣れぬ馬車の登場に驚いたようで、興味津々に見ている。だがそれは商隊のみんなも同じだったようだ。


「こ、これは……!」

「こんな立派な建物が……」

「なんだここは……こんな場所があるなんて……」


 ノームたちによって造られた美しい建物や工房に目を丸くする一同。そりゃそうか、規模で言ったらどう見ても少人数の集落にしか見えないのに、建物や技術だけがやたら進んでいるんだものな。

 驚きっぱなしの彼らにはあとでいろいろと説明するとして。広場前まで馬車を引き連れ、広場の石畳の前で止まった。ここなら広いし、オルトロスを運び出す作業もスムーズにいくだろう。さすがに解体所に全部は邪魔になるかな?とりあえずこのまま肉保管庫に入れるか?日も沈みかけてるし、解体は明日からにしよう。

 平和な村の異様な光景に集まった村人、ちょうど鬼人たちもいるし、オルトロスを運び入れるように指示を出す。

 力自慢の鬼人たちの働きはさすがの一言で、オルトロスがどんどん運ばれていく。かなり重量のある巨体を持つオルトロスを、小脇に一頭ずつ抱えて悠々と歩くナディアの姿にはさすがの護衛隊も乾いた笑いが出ていたよ。










 商隊の一行には俺の館に来てもらった。昼ご飯を抜いた俺はかなりお腹が減っている。アヤナミに頼んで大急ぎで夕食の支度をしてもらった。もちろん商隊の面々も一緒だ。初めて来た客人にはうちの村の美味い飯を食べてもらうのがもはや恒例になりつつある。

 屋敷についたヘイディスさんたちは呆然としていた。よくわからないけど、ヘイディスさんたちの国の王都でもなかなか見ないほどの立派な建物らしい。うちのドワーフ職人軍団、やっぱやりすぎじゃないか。「領主ならばこれくらいが普通じゃ。今まで請け負ってきた人間の貴族どもはみーんなこんなもんじゃったぞ!」と、半ば押し切るようにしてあれやこれや作っていたが。この世界のスタンダードを知らない俺はすっかり騙されたというわけか。

 吹き抜けの天井を首がつりそうなほど眺める一行を促し食堂へ。ホールから食堂へ移動する間も「この彫刻は……」「この柱の立派なこと……」「すげえぞ、この重厚な扉!」とあっちからこっちから感嘆の声が聞こえる。こと商人のヘイディスさんはやはり物の良し悪しがわかるのか、調度品や壁や柱の細工一つ一つを食い入るように見つめていた。


 食堂に到着し、アヤナミの料理ができるまで改めて自己紹介をすることにした。ちなみに食堂には俺たちの他にロベルトさんをはじめ村人も多く集まってきている。初めての人間の客人にみんな興味津々なのだ。

 まず商隊のメンバー。商人のヘイディスさん。オルテア王国で商会をやっている。といっても自分はまだ若造で、修行のためにあちこちで行商をしているらしい。口調は丁寧だが快活でエネルギッシュな感じが出ている。

 下働きの二人はカストルとポルコ。まだ成人して間もないが、十歳の頃から商会の下働きを務めているため一通りの仕事はできるというベテランだ。

 そして護衛隊のメンバー。彼らはヘイディスさんの住む街を拠点にしている冒険者で、チーム名は「(あかつき)」という。熟練冒険者の中でも特に優秀な「ゴールド(ランク)」の冒険者らしい。ヘイディスさんが遠方に旅をする時には必ず指名依頼をするほど信頼しているんだとか。

 メンバーはリーダーのダンテさん(双剣士)

 ディーノさん(大剣士)

 ネロさん(魔術師)

 ジャンさん(弓使い)

 バルドさん(盾役)だ。

 みんな俺より年上の30代くらい。護衛の騎士かなんかかとおもったら冒険者だったのか。この世界の冒険者は初めて見るが、みんなビシッとしていてかっこいいな。

 自己紹介の流れで村のみんなにこれまでの経緯を説明した。風移動で失敗してデスマウンテンの北側に行ったこと。キノコの群生地がみつかってたくさん持って帰ってきたこと。帰る途中で商隊とオルトロスの戦闘現場に遭遇し、シリウスの力でオルトロスを倒してきたこと。そしてそのお礼にオルトロスを馬車に乗せてここまで運んでもらったこと。


「しかしオルトロスとは、また珍しいもんを狩ってきたのう。」


 ロベルトさんがほうっと息を吐きながら言う。ロベルトさんによると、オルトロスはCランクの魔物だが、群れを作って連携するため実際にはBランクに相当するのではないかと言われている。若いころにオルトロスの群れが町の近くまで来た時には討伐隊の一員として戦ったことがあるらしい。ただ、普段は森の奥深くに生息するためめったにお目にかかることはないのだとか。それを聞いて安心したよ。こんな頭が二つもある魔物がホイホイ出てきたらとてもじゃないけど心臓が持たないし、もう森なんて歩けないからな。


「それで、持って帰ってきたは良いけど、うちで使い道あるかな?」

「うううむ、わしには思いつかんのう。」

「皮が防具として使えるが、この村では必要ないじゃろうな。宝の持ち腐れという奴よ。」

「骨や肝が薬につかえるかもしれません。……さすがに十頭分もいりませんけど……」

「肉は美味しいですよ。食料としてなら有用だと思います。」


 ロベルトさんをはじめ、ドワーフもエルフも首を振る。そんな中、ジェイクの言葉が引っかかった。


「ジェイク、オルトロス食べたことあるのか?」

「はい。里を追われて一人で過ごしていた時にたまたまはぐれ者に出会いまして。その肉と毛皮を身に着けて凌いでいました。柔らかく旨味の強い肉でしたよ。」

「その通りです。オルトロスの肉は私の国では超高級品でして、貴族が晩餐会をするときなどに出されます。オルトロス自体が珍しく、その強さ故狩るのも一苦労、おまけに美味とあって、権力や武力の象徴として好まれるんですよ。」


 ジェイクの言葉にすかさずヘイディスさんが補足説明をする。そ、そうなんだ。貴族は好んで食べるんだ……犬肉を。

 まあ、地球でも一部の国では犬肉が高級珍味として食べられてるっていうし、まずいことはないんだろう。

 というかジェイク、あの獰猛なオルトロスを一人で倒して食ったのか。それも素手で。ひょっとして初めて会ったときの腰に巻いていた真っ黒い毛皮はオルトロスの皮だったのか?

 わかっていたことだけど、改めてジェイクの力はとんでもないな。


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