表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/246

94.神様ではないです

感想、いいね、評価、ブクマ、ありがとうございます!

まだの方も是非お願いします。

 オルトロスも積み込んだし、吸血鬼(ヴァンパイア)も帰っていったし、そろそろ帰ろう。

 ちなみにやはりというか、オルトロスが大きすぎて人間の入るスペースはほとんど残されていなかった。せいぜい三、四人分のスペースしかない。それもぎゅうぎゅうに詰めた場合で、だ。

 護衛のみんなは歩いて付いていく気みたいだけど、空飛んでいくし、俺と一緒に龍の背中に乗ってもらうとするか。


「じゃ、シリウス、よろしく。」

「かしこまりました。」

「あの、いったい何を……?」


 首をかしげるヘイディスさんの前で、シリウスの身体を細かい砂塵が包み、その身体はどんどんデカくなる。そして数秒もたたないうちに、柔らかな砂を思わせる薄茶色の立派な龍の姿になった。


「ヒーヒヒヒヒイイイィイイン!!!!!」


 いきなり目の前に現れた巨大な龍にパニックになる馬。手綱を振り払って逃げ出そうともがく。たかが馬一頭、しかし渾身の力で暴れるためつながれていた馬車も大きく揺れた。このままでは馬車が倒れてしまいそうだ。

 すかさずアヤナミが魔法で眠らせた。”癒しの龍”であるアヤナミには、”水神の眠り(トライデント)”と同じような魔法が使えるらしい。眠った馬はおとなしくなり、ゆっくりと座り込むように倒れていった。ふう、これで良し、あとは眠っている間に一緒に運んでしまおう。アヤナミ、グッジョブだ。


「こ、これは……!!」

「ドラゴン……!?」

「ドラゴンだ……」

「こ、こんな……こんなことって……」

「は、ははは……夢、じゃないよな……?」

「俺、ガキの頃におとぎ話で聞いたことある……神様は自分の使いとして龍を従えてるんだって……」


 目の前の龍に商隊の面々は呆然と立ちすくみ、口々にそんなことをつぶやく。あ、やっぱり龍とか普段見ないからびっくりさせたよな。大丈夫、これはさっきのシリウスだから危害を加えたりしないし安全だよ。そう伝えようとした瞬間。


「「「「「「「神様っ!!」」」」」」」


 全員そろって俺の目の前にがばっと跪き頭を下げる。

 ええ?神様?俺?俺のこと??

 予想だにしなかった反応にこっちの対応が出遅れる。


「あの、えっと……?」

「龍を従え、吸血鬼(ヴァンパイア)にも慈悲の心を示すそのお姿……!よもや神様が我々の前に現れて下さるとは……!」

「いや、ちが……」

「神様、お助けいただき、ありがとうごさいます!」

「いや、だから……」


「神様!」と口々に言って聞かない面々にこれまでの経緯を説明した。

 俺はただの人間で(異世界から来た転生者ではあるけど、そこは当然秘密だ)シリウスとアヤナミは子龍であること。とある事情により今は二人を預かっていて、その代わりに俺の世話係をしてくれていること。断じて神様ではないです。はい。

 地面にへばりつくように平伏するみんなの頭を何度も何度も何度も起こし、苦労して説明すること十五分。やっと落ち着きを取り戻してくれた。


「そういうことだったのですね。いやはや、しかし驚きましたよ。」

「本物の龍にお目にかかれるなんて……」

「道理で強いはずだ。オルトロスを一瞬で串刺し、吸血鬼(ヴァンパイア)をガチガチに拘束だからな。それでも伝説の龍ともなれば納得だな。」


 なんでも護衛隊のバルドさんは小さいころに毎晩のように聞いていた物語で、神々の使いである龍が人間の街に現れ、魔王を追い払う、そしてその国は平和になったという話があったらしい。まさか本当に龍が存在するとは。小さいころからのあこがれのヒーローに会えて感激した様子だった。他のみんなも”龍が神の使い”であるということは精霊を信仰するものにとって常識であり、龍もまた信仰の対象だったということであんな態度になったらしかった。

 落ち着きはしたものの未だ信じられないという様子だが、このままでは日が暮れてしまいそうだ。とりあえず移動しましょうということで商隊の三人には馬車に乗り込んでもらう。残念ながら馬車はもう満員のため、護衛の五人はシリウスの背中でいいかな?と聞くと、「龍の背中に乗れるなんて!」と大興奮の様子だった。興奮しすぎて落ちないようにな。

 緊張した様子で馬車に乗り込むヘイディスさんに、「揺れるかもしれないからしっかりつかまって、あんまり顔とか出さないでくださいね」と念を押しておく。

 龍の爪で馬車の屋根が壊れることがないかと一瞬不安に思ったが、馬車は丈夫にできているらしくシリウスがつかんでみても平気なようだった。

「うちの馬車の中でも特に頑丈なものを手配しましたからね。森のガタついた道でも壊れませんでしたよ。」と自信満々なヘイディスさん。馬車が大丈夫ということを確認したので、シリウスにしゃがんでもらい背中に乗る。アヤナミに比べてシリウスはかなり大型の龍だ。というか、二階建ての家一軒分くらいの大きさがある。当然大人七人乗っても全然余裕がある。

 このサイズで子龍って、やっぱいろいろ規格外だよな。

 当然、二階建ての家の高さにある背中に乗るんだから一苦労だ。尻尾の方からごつごつとした背びれに手をかけ足をかけ順番に登っていく。


「うわ……龍に触ったぞ……!」

「伝説の龍に触る機会なんて一生ないよな……」

「この強靭な肌触り……どんな攻撃も通りゃしないだろうな」

「そりゃそうだ。たとえミスリルでも不可能だろうよ。」

「すげえ、俺、ドラゴンの背に乗ってるよ……」


 護衛隊の面々は興奮冷めやらぬって感じだ。無事背中に乗りこんだ後も絶えず背中を撫でまわしていた。


「では、出発します。シリウス、いつも以上にそっと頼むな。」

「お任せ下さい。」


 シリウスがバサリと翼を広げ離陸する。かすかな揺れに「うおっ」と声を出す護衛隊。端まで行って下を見る勇気はないが、おそらく馬車の中のメンバーも大丈夫だろう。一気に上昇し、森を抜ける。シリウスの結界で気圧や風圧は微弱にしか受けないものの、急上昇・急降下は何回やっても慣れなくて無意識のうちに歯を食いしばっている自分がいる。

 森の木々がなくなると一気に見晴らしがよくなる。遠くの方に見えるのは海だ。あと一時間ほどで陽が沈み始めるだろう。

 そして鬱蒼とした森にぽっかりと開いた穴。そこに見えるひときわ巨大な樹。あれが僕らの村の世界樹だ。こうしてみると、本当に森の主だな。上から見るとよく目立つ。


「すげえ!!」

「綺麗だ……」

「空を飛んでるよ……」

「ドラゴンに乗って……」

「うおおおぉぉ!!!俺はドラゴンライダーだ!!!」


 護衛隊大興奮の空の旅はあっという間に過ぎていった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ