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9.畑をつくろう


「ん?おはよう。早いな、まだ寝てていいぞ?」

「おはよう、ロベルトさん。いや、朝のうちに川で頭を洗っておきたくて。」


 みんなが起きるより随分と早く起きてきた俺に、ロベルトさんが声をかける。

 ロベルトさんも、「なるほどな。」と納得顔だ。


「なら、気をつけていってくるといい。朝の水は冷たいからな。頭がスッキリするじゃろう。」

「俺が終わったら、見張り代わるからロベルトさんも行っといでよ。」

「お、いいのか?じゃあそうさせてもらおうかの。」

「じゃ、すぐ戻るよ。」



 森の中を十五分ほど歩いて川にたどり着く。セシルが道標として古布を枝に巻きつけていたので、迷うことはなかった。


「くっ!つ、冷てえ!」


 思わず声が出る。そりゃそうだ。朝方は服を着ていても肌寒いくらいだ。

 だが、温水なんてものはないので覚悟を決めて頭を水につける。


「ひっ……!」


 情けない声が漏れる。うう、とっとと洗って焚き火に戻ろう。

 俺は持ってきたレモンの香りの石鹸を乱暴に泡立て、ガシガシと髪を洗う。

 シャンプー?そんなものはない。コンディショナーはもともとしない派だ。

 あ、でも、もう少し生活が安定したら持ってきてもいいかもな。女性陣は喜びそうだ。うん、後でメモしておこう。

 綺麗な川に泡を流してしまうのはなんだか申し訳ないが、ここはしょうがない。

 なるべく下流に移動して洗い流す。ふう、スッキリ。

 頭も相当汗をかいていたらしく、先程とは手触りが違う。ただ、手洗い用石鹸で洗ったからキシキシしているけど。

 よし、服も着たし、忘れ物もないし、さっさとロベルトさんのところに戻ろう。

 木々の間から徐々に光が強くなっている。太陽が顔を出し始めているな。

 今日もいい天気になりそうだ。


 








「おはよう、あら?ケイが見張りをしているの?」


 女性陣で最初に起きたのはやっぱりテレサ。俺が寝ていた隣の小屋から出てきた。

 ちなみに部屋割はテレサ親子三人とマリアさん、俺とロベルトさんの4:2だ。

 男女で別れようかとも思ったが、見張りの交代で起こすのも忍びないと、こうなった。

 あ、もちろん四人用の小屋は少し大きくしてある。

 セシルは「おれは起こされても平気だし、何なら見張り役するし!」と渋っていたが、流石にまだ幼すぎるので却下。十歳だもんな。

 とはいえ、いろいろと器用だし、男気もあるから将来が楽しみだ。


「おはようテレサ。ロベルトさんは川で頭を洗いにいってるよ。」

「ああ、そういうこと。いいわね。食事のあとで私達も行ってこようかしら。」

「うん、そうするといいよ。さっぱりするし。」

「ふあ……おはよう。」

「おはようセシル、フランカは?」

「ん……まだ寝てる。おーい、起きろ。朝だぞ。」

「ん~、おはよぉ、お兄ちゃん。」

「みんなおはよう、昨晩も見張りありがとうねぇ。」

「お、みんな起きてきたのか。昨晩も何事もなく静かな夜じゃった。本当にこの場所にして正解かもしれんな。」


 みんなが揃ったところで朝食だ。昨日の魚の串焼きを炙り直し、バーダの葉を少量の塩でもんで食べる。サラダみたいだけれど、やっぱり味気ない。

 調味料は貴重だから仕方がないけれど、ドレッシングがほしいなあ。


「今日は私たちは畑作りに取り掛かるよ。ロベルトさんとケイは小屋作りの続き?」

「いんや、昨晩寝ながら考えたんじゃが、畑を先に作ってしまおうかと思う。木造小屋は一つ一つに時間がかかるし、その間に食料が尽きては元も子もない。まずは安定した食料の確保が必要だと思うんじゃ。」 

「そうねぇ。二人で小屋を作るには人手も足りないし、みんなで一つ一つ順番に取り掛かりましょう。」


 俺もロベルトさんとマリアさんの意見に賛成だ。

 そして畑だが、


「あの、実は鞄の底にこれが入ってて、おそらく種だと思うんだけど。」

 

 そう、地球から持ち込んだ野菜の種だ。ニンジン、タマネギ、ジャガイモ、トマト、キャベツ、ナス、キュウリ、オクラ、イチゴ、トウモロコシ、ハツカダイコンにカボチャ。

 姉貴がホームセンターの家庭菜園コーナーから手当たりしだいに買ってきたものだ。大葉やバジルなんてのも入っている。

 もちろん、あのカラフルなパッケージを見せるわけにはいかないので、これまた姉貴調達のコルク栓タイプの小瓶に移し替えている。なんでも百均のハンドメイドコーナーとか、インテリアコーナーにはこういうちょっとレトロな小物が豊富らしい。


「これは……こっちはジャガイモ、これはタマネギ、これはニンジン…………」


 さすが農夫のロベルトさん、次々に名前を当てていく。一応俺にもわかるように、コルクの部分に日本語で名前を書いてるけどね。

 どうやらイチゴと大葉、オクラ以外はここでも流通しているようだ。


「これだけ種類があれば、食料には困らんだろう。」

「良かったじゃない。ケイ、ありがとうねぇ。」

「すべてうまく育てば、前いた村よりもいろいろな物が食べられるわね!」

「やったぁ!ぜったいうまく育てようぜ!」

「フランカ、トマト大好きー!」


 全員の意欲がぐんと上がったところで、早速畑作り開始だ。





「このくらいの広さでいいかな?」

「ああ、これだけあれば十分じゃろう。」


 女性陣が川で髪を洗っているあいだに、俺とロベルトさんで土作りだ。

 畑はタタミ二畳分くらいの範囲に一種類ずつ植える予定だ。

 俺が持ってきた種は十四種類あるから、およそ二十八畳分。ロベルトさん夫妻がじゃがいもとたまねぎの種を持っていたので、その2つは他より広めにとった。そう考えるとかなり広いな。

 ロベルトさんに教わりながら畑を耕していく。俺が耕したところに、ロベルトさんが持ってきた肥料(雑草なんかを発酵させた腐葉土みたいだ)をすき込んで畝を整える。

 俺が持って来た粒タイプの化成肥料も入れさせてもらった。怪しまれないようにこっちの文字で『肥料』って書いておいたから、俺の祖国の肥料だと勝手に納得してくれた。

 畑が広いので、水浴びが終わった女性陣が戻ってくる頃にはまだ半分も進んでいなかった。

 そこからは、全員参加でせっせと耕す。おかげで昼頃には種まきも含めて作業が終了した。

 朝の水浴びも虚しく、みんな泥だらけになったけどね。

 フランカはジョウロでの水やりが気に入ったらしく、広場の大樹にもせっせと水をやっていた。

 これ以上大きくなったらどうしようかな。


 昼食を終え、俺とロベルトさん、セシルの男性チームは木でテーブルと椅子を作ることにした。

 いつまでも地面に座って食事をするのはいかがなものかと思ったからだ。

 調理なんかをするにも、地面にまな板直置きではどうしても土がついちゃうしね。

 大きめの木を伐採して、『ほぞ接ぎ』の要領で四足テーブルをつくる。

 『賢者の書』ことファイリングが役に立った。丸太で作るテーブルもログハウスの作り方も、バッチリ載っている。

 謎の言葉に高度な技術の『賢者の書』はみんなに驚かれたけれど、『天啓』によって得たものだとごまかしておいた。

 まあ、ディミトリオス様に貰った力でこっちの世界に持ってきたんだから、あながち間違いでもないし。

 大きな木を切ったり、長さを揃えたりするのはロベルトさん。俺とセシルで接合部分の加工。

 こういった工作は結構好きだし、入院中も母に勧められた消しゴムはんこや木工細工をやったことがあるから、初めての割に綺麗にできたと思う。

 セシルもなかなか上手だった。魚とりといい小屋作りといい、色々と器用な子だ。


 女性チームは干し魚づくり。魚を日持ちするように加工できれば食料の備蓄にもつながる。

 セシルは魚を獲りに途中から向こうチームに合流。

 獲った魚を血抜きして、開きの状態に。塩を少々すり込みほんのりと味をつけたら、天日干しで数時間。

 そのうちみりん干しとかも食べたいなぁ。


 日が落ちる前に交代で水浴びをし、汗と泥汚れを落とす。

 昼間の太陽で朝に比べて温かいとはいえ、やはり水は冷たい。

 一刻も早く風呂を完成させねば。

 その前に小屋か。けっこう大変だな、これ。


 畑と御神木が相当気に入ったらしいフランカが、もう一度水をあげた(あげすぎも良くないから、ごく少量だ)ところで今日は就寝。

 さて、野菜が無事に育つといいな。というか、全部一気に植えちゃったけど、種まきの季節とか違うよな?そもそも今は春なのか?

 明日になったらロベルトさんに色々聞こう。

 この世界のこと、俺はまだまだ知らなすぎる。

 

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[良い点] 半年(実質的には10年)のタイムリミットが決められてる中でどんな展開になるのか、楽しみです。 [気になる点] 市販の野菜の種とかって、育てやすくとかつまみ易くする為に、粘土で覆ってたり、色…
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