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82.一番怖いのは

 メンバーが決まったということで、さっそく準備をして朝早く旅立った。

 何日かかるかわからないため他の仕事を仲間たちと調整したり、食料や野営道具を揃えたりと割と大掛かりな準備だ。鬼人たちが仲間探しをしていた時に似ている。


 セシルはフランカのことが気が気でないらしく、出発の直前まで何度も「もし嫌なら行かなくていいんだぞ?」「絶対に一人で離れるなよ。大人たちのすぐ近くにいて、言うことをよく聞くんだ。」「本当はおれが変わってやりたいけど……」と言い聞かせている。


「セシル、心配するな。フランカは絶対に守る。ケガ一つさせないよ。だから安心して待ってろ。」

「村長……約束だからな。フランカのこと、絶対守ってくれよな。」


 セシルと男の約束を交わし、ようやく俺達は出発した。



 村を出て、まずは南西の方角へ。目指すはシルキィを見つけたオリーブの林だ。

 さすがにフランカの足には合わせていられないので、フランカはイヴァンに抱えられている。そのフランカにシルキィが抱えられる形だ。

 ジェイクの背中にパーシヴァルが背負われ、シリウスの背中に俺が背負われる形でオリーブの林まで一気に進んだ。

 「龍の姿に戻れば全員を運ぶことができるのですが……」とシリウスは言うが、鬱蒼とした森の中にあの巨大な龍の身体は無理があるので却下した。しかし人間の姿、しかも細身の男性の姿だというのに俺を背負ってもびくともしない。それどころか鬼人の二人の走るスピードに余裕でついていくなんて。やっぱり龍なんだなと今更ながらに納得した。

 フランカが怖がるといけないのであまりスピードは出さなかったが、それでも歩くよりは何十倍も早く到着した。息一つ上がっていない鬼人と龍のチームに比べて、背中に乗っていただけなのにヘトヘトな俺達。フランカは「すごーい!はやーい!!びゅーんって!!」と興奮気味だ。


「あ、あんなに速いとは……そして揺れるとは……」

「はぁ……はぁ……気持ち悪……」


 長時間揺られてすっかり酔ってしまった俺とパーシヴァルのためにここで少し休憩をとる。

 ひ弱だとか思わないでほしい。あのスピードであの揺れで数時間耐えたんだから。途中でリバースするかと思ったよ。

 シルキィはフランカの腕から離れ、オリーブの木に登り始めた。この季節は残念ながら実がなっていないが、葉っぱも好きらしくムシャムシャと食べ始める。

 しばし休憩をとったら、再び進む。ここからは道がわからないので、シルキィに案内してもらう。フランカはジェイクに抱えられて進む。シルキィは茂みやら倒木やら石やら、様々なものを無視して進んでいくのでついていくのも結構大変だ。

 何度か休憩をはさみながら進み、日も傾き始めたころ、野営にちょうどよさそうな空き地を発見した。暗くなってからの行動は危険なため、今日はここまで。この空き地で野宿をすることにした。

 完全に日が落ちてしまう前にかまどを作り、火を起こす。ちなみに火はパーシヴァルの魔法で一瞬でついた。

 保存食である干し肉や干し魚をあぶり直して食べる。ジャガイモやサツマイモを焼いたものと一緒に食べた。バターかなんかがあればいいんだけど、野宿でそんな贅沢も言ってられないか。じゃがバター、おいしいよな。帰ったら広めてみよう。

 風呂には入れないので体を軽くふき、汗や汚れを落とす。練習した「水球」や「洗浄」の魔法が役に立ったよ。

 夜の見張りにジェイクとイヴァンが名乗り出るも、「私の結界がある限り魔王が来ても大丈夫です。」とシリウスに押し切られ、全員就寝することになった。

 相変わらず龍族の魔法は桁違いで怖いな。いや怖いのは加減を知らないシリウスか。焚火に引き寄せられた大きめのガが俺達に近づいた途端、「バシュッ」という音と共に消滅してしまった。跡形もなく。

 当のシリウスは「ほら、御覧のとおり、どんな魔物が来ても大丈夫ですので、安心してお休みください。」とにっこり。

 この笑顔に逆らう気は誰一人として起きなかったので、俺達はおとなしくマントにくるまった。

 ……時折、「バシュッ」「バシュッ」という音が聞こえたのは気のせいということにしておこう。うん。




 朝になり、朝食と荷造りを済ませたらさっそく出発。

 ここからは徐々に勾配が目立ち始める。森というより山のふもとだな。


「俺達山に登っているのか?」

「そうですね。方向と距離から考えて、デスマウンテンの方へ向かっているのではないかと思われます。」


 地理に詳しいパーシヴァルがすぐさま答える。ってちょっと待て、今なんか物騒な単語が聞こえたぞ。


「デスマウンテン?」

「名前の通り、その山に行って生きて帰ったものはいないといわれる死の山です。メインの山は今も活動している大きな活火山なんですよ。その周辺の山々も含め、魔物や野生動物が多く生息しています。私も麓の森までなら何度か行ったことがあるのですが、さすがに本格的な登山は避けたいところですね……。」


 シルキィ、お前とんでもないところからやって来たんだな。そんな俺の思いも知らず、シルキィはどんどん進んで行く。当然登山道も何もあったもんじゃないので、時にイヴァンやシリウスに背負われながら進んだ。道中、大きなクマや巨大なイタチっぽいものに遭遇した。が、シリウスの姿を見るなり「キャンッ」と叫んで尻尾を巻いて一目散に逃げて行った。


「今のは何だ?」

「あれはビッグウィゼルという下等の魔物ですね。山間部に生息していて、雑食性です。」


 やっぱあれ、魔物だったんだ。野生の魔物は初めて見たよ。まあシルキィも魔物ではあるんだろうけど。

 それに、シリウスの姿を見て逃げ出したってことは、やっぱり野生の勘的なもので危険を感じ取ったんだろう。生きる上で恐怖という概念は大事だからな。

 それから、やたら大きな蝙蝠のような奴らが数匹俺達に向かって飛んできたが、やはりシリウスの結界で消滅していった。跡形もなく消え去るもんだから、はっきりとした姿が見えなかったよ。パーシヴァル曰くあれはイビルバッドという魔物で、生き物の血を見境なく吸う森の厄介者らしい。

 やっぱ村の周辺が安全だっただけで、森の中はいろんな動物や魔物がいて怖いな。

 いや、一番怖いのは涼しい顔して有無を言わさず蹴散らすシリウスなんだけど。

 そんなこんなで山道を登っていると、茂みに隠れるようにしてぽっかりと開いた洞窟の入り口を発見した。

 

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