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81.故郷へ

「シルキィ!よかったぁ!死んじゃったかと思ったよ!!」

「シルキィは進化して強くなったんだ。もう大丈夫だよ。」


 シルキィが大丈夫だと聞いて駆け寄るフランカ。三十センチ超の大蜘蛛相手にまったく怖がらず「つるつるになったね」などと言いながら脚をつんつんしている。さっきの威嚇を見ているので、フランカが攻撃されやしないかと内心ひやひやしていたがシルキィにその気はないようだ。フランカの目の前に座り込み、されるがままにしている。そんな二人の様子を羨ましそうに見つめるパーシヴァル。


「あのな、フランカ。俺たちシルキィに頼みたいことがあってさ。シルキィに伝えてくれるか?」


 俺たちはフランカの通訳を介してシルキィに頼み込んだ。

 雌のシルクスパイダー、できればキルスパイダーにこの村で研究に協力してほしいと頼んでほしいこと。

 衣食住は保証し、俺たちに危害を加えない限り安全面も保証するということ。

 俺たちが信用できる人間だということを蜘蛛側にアピールしてほしいこと。


「……だめかなぁ?」


 できるだけ簡単な言葉にしたつもりだが、八歳のフランカの説明でわかってくれただろうか。

 フランカはシルキィのそばに耳を寄せ、「うん、うん……」と聞いている。

 今更だけど、本当に蜘蛛の言葉がわかるんだな。

 かなり有用だし、稀な祝福をもらったと思う。大人になったら外交担当とかで活躍しそうだな。

 しばらくして、フランカが俺達に向き直った。


「えっとね、なんかお母さんに会わなきゃいけないんだって。」

「お母さん?」

「うん、あのね……」


 フランカの説明を要約するとこうだ。

 シルキィにはたくさんの兄弟がいたはずだが、幼い時に連れてこられたため兄弟たちのことはあまり覚えていない。向こうも自分を仲間と認識してくれるかわからない。

 母蜘蛛である『蜘蛛の女王』に会えば、話を聞いてもらえるかもしれない。蜘蛛の女王の言うことは絶対なため、兄弟たちも協力してくれるはず。


「その蜘蛛の女王の居場所はわかるか?」

「えっと……だいたいの場所はわかるけど、詳しくは行ってみないとわからないって。あと危ないところなんだって。」


「危ないところ」と聞いて、フランカが不安な顔をする。


「パーシヴァル、どうする?」

「蜘蛛の女王……おそらくキルスパイダーのさらに上位種、ヘルスパイダーでしょう。もしくは、そのまたさらに上位種、デーモンスパイダーか。ここまでくると資料でしか見たことはありません。彼らは知能が高く狩りに長けていると聞きます。その巣に入り込むのですから、敵対してしまった場合は……絶望的ですね……」


 パーシヴァルの説明に思わず心臓のあたりがヒヤリとする。一メートル超の超巨大蜘蛛に捕らわれる自分の姿を想像してしまった。


「しかし、これはまたとないチャンスです。我々だけの交渉ならまだしも、こちらにはシルキィさんとフランカさんがいるのですから!村長、私、行ってみたいです!いえ、どうか行かせてください!!」


 パージヴァルが力強く言った。表情も先ほどへらへらとシルキィに絡んでいたものとは全くちがう。本気の研究者の顔だ。

 俺としてもシルクスパイダーの研究が進むのは喜ばしいことだ。それにパーシヴァルのことだ。こうなったら俺がだめだといっても一人で行こうとするだろう。だったらしっかりと準備をしてみんなで行った方が良い。

 問題は誰が行くかだな。こればっかりはここで勝手に決めるわけにはいかない。

 俺は午後の会議に急遽大人たち全員を呼び集めることにした。








「…………というわけで、シルキィの生まれた洞窟に行ってみようと思うんだ。」


 館の会議室にはロベルトさんをはじめエルフたち、ドワーフたち、そして鬼人たち、村の大人が勢ぞろいした。これだけの人数が軽々と入る大食堂はやっぱりめちゃくちゃ広いんだな。

 それと、フランカも呼んである。今回の里帰りはフランカの協力なしには成功しない。もしフランカが「怖いからいやだ」と言えば、その時はパーシヴァルには大人しくあきらめてもらう。

 俺の説明を聞いて、さっそく口をはさんできたのはジークとバルタザールだ。


「蜘蛛の女王じゃと?あんなもん近づくやつがあるか。噂では二メートルを超す大蜘蛛で、人間でも動物でも、他の魔物でも頭からムシャムシャと喰っちまうと聞くぞ。わし等が行って対等に話ができるなどとは思わんな。」

「儂は長いこと武器を作っておったから人間の冒険者にもそこそこ会ったことがあるが、キルスパイダーやヘルスパイダーは他の蜘蛛とは違って群れを作ると聞く。洞窟の中には仲間がうじゃうじゃと待ち構えておるだろうよ。」

「でもこちらにはシルキィとフランカがいます。彼らの協力があれば蜘蛛たちと戦わずに済むかもしれません。今すぐに協力を得られるかはともかく、こちらに敵意がないことは伝わるはずです。」


 そう答えたのは鬼人のダリオだ。


「そう。ダリオの言う通り今回最も重要になってくるのがフランカ、君だよ。」

「わたし?」

「うん。俺達の中で蜘蛛と話ができるのはフランカしかいないんだ。だからフランカがいないと洞窟に行っても蜘蛛たちと仲良くなるのは無理だと思う。もしフランカが怖くて行きたくないと思うなら俺たちは行かない。これはフランカの意思で決めていい。自分の思いを言ってごらん。」


 行きたいのはやまやまだが、こればっかりはフランカ次第だ。

 もしフランカが行ってもいいというのであればフランカへの守りを万全にして連れていく。行かないならそこで終わり。今まで通り研究はのんびりと進める。別に急ぐ必要はないしな。


「うーん……ちょっと怖い気もするけど……でもわたし、シルキィのお母さんやお友達に会ってみたい。」

「行くのか?」

「うん。でもケイお兄ちゃんたちも一緒に来てくれるでしょ?」

「それは勿論だよ。フランカのことは絶対守るからな。」

「決まりですね。」


 パーシヴァルが嬉しそうに言う。うん。フランカが決心してくれたんだ。俺たちも覚悟を決めて行こう。


「あとは、誰が行くかだな。」


 今のところ決定しているのはフランカ、シルキィ、あとは専門家のパーシヴァル。

 あ、そうだ。俺にはアレがあるんだった。


「俺も行くよ。役に立つかわからないけど、『水神の眠り(トライデント)』がある。もしもの時には使えるかもしれない。」

「自分も行きます。他の鬼人や人間よりも肌が強いので、蜘蛛たちの攻撃にも耐えられるはずです。」

「自分も。」


 そういったのはジェイクとイヴァン。ジェイクは村一番の戦士として名高いし、イヴァンもまだ十七歳と若いが遺伝子が鬼寄りのため身体が丈夫で身体能力も他の鬼人より高い。


「ケイ様。私もお供いたしましょう。」


 名乗りを上げたのはシリウスだ。あれ?確かに龍は一体連れていくつもりだったが、何となくアヤナミを連れていくつもりだった。

 いや、特に理由とかはなくて、いつもついて回っているからだからどっちだっていいんだけど。


「アヤナミを連れて行こうかと考えてたけど、行きたいのか?」

「蜘蛛系の魔物は特殊な例を除いて大地の系譜ですから、私と相性が良いのです。いざとなったら無理矢理にでも跪かせて差し上げますよ。」

「ええ……まあ、了解。」


 まーた危ないことを……。まあいっか。連れて行くのはシリウスで。アヤナミは村の守護といつも通り屋敷や神殿の管理。アヤナミに問いかけると異論はないようだ。


「他に行きたい人はいるか?いなければこのメンバーで。」

「異論はありません。」

「賛成です。」

「気を付けて行くんだよ。」


 全員異論はなし。決定だ。

 こうして俺達はシルキィの生まれ故郷である洞窟へ出発した。

 

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