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8.協力者

「圭ー、来たよー。」


 夕方、勝手知ったる様子で入ってきたのは、三歳年上の俺の姉、理絵だ。

 手には激安ホームセンターの印刷が入った袋。

 

 野菜の種を自力で買いに行くことができない俺は、姉貴に差し入れとしてお願いした。

 姉貴はいつも赤べこやらリコーダーやら、よくわからん差し入れを持ってくるから、あんまり深く突っ込まれないかと思ったのだが、ホントにフツーに持ってきたな。

 病室への差し入れに大量の野菜の種と肥料、ブリキ製ジョウロ。おかしいとか思わなかったのか?

 

「ああ、ありがとう。姉貴。」

「ていうか、何?病院内で家庭菜園でもやんの?鉢物は『根を張る』から病室には向かないんだよ?」

 

 冷蔵庫から勝手にジュースを拝借しながら、「あ、プランターとか土とか買ってないじゃん。」なんて言っている。

 ホントにずれていると言うか、変わった姉だよな。

 俺が高校に入学し、姉貴が専門学校入学を機に一人暮らしを始めてからはあんまりしっかり話す機会はなかったけれど。

 三日に一回は顔出しにやってくる(謎の差し入れを持って、病室のお菓子やジュースなどを拝借して帰っていくだけだけど)から、俺のこと嫌いではないんだろうし、俺も別に姉貴のことは嫌いじゃない。

 いや、昔はお転婆すぎてちょっと嫌いだったけど。


「まあ、ちょっといろいろあってさ。」

「ふーん、ま、頑張ればー?あ、もしたくさんできたらおすそ分けしてね。」


 クッキーを頬張りながら適当に応援してくる姉貴。

 変わった人だけど、今の俺にとっては重要人物だ。


「あのさ、ちょっと姉貴に相談があって……。」

「何よ、改まって。」

「俺が急に具合悪くなった日のことなんだけど。」

「あ、それよそれ!大丈夫だった!?丁度研修旅行中でさ、びっくりしたんだから!!!」

「うん、もう大丈夫。先生も何も問題ないってさ。で、その時のことで、ちょっと、というか、かなり信じられないかもしれないんだけど……。」

「何?臨死体験でもした?」


 ケラケラ笑っていた姉貴だが、俺の真面目な顔を見て何かを察したのか、姿勢を正して向き直った。


「とにかく聞かせてよ。」

「うん、あの時さ…………」


 俺はすべてを打ち明けた。

 真っ白い空間にいたこと。神様との会話。自分があと半年で死ぬこと。他の星の住人として転生すること。転生先は技術も発達しておらず、戦争中であること。


「……だからさ、残りの半年間で、できるだけ向こうの世界を発展させたいんだ。今度こそ、元気に長生きできるように。」

「………………」

「それで、俺は病院からあんまり出られないから、必要な買い出しとか姉貴にお願いしたくて……。」

「……………………」


 ……やっぱり信じろっていうほうが無理があるか。はたから見ればただの頭おかしいやつだもんな。

 姉貴はしばらく真顔で俺を凝視していたが、やがて「はあ~あ」と大きなため息を吐いた。


「……はは、やっぱ信じるわけないよな。ごめん姉貴、変な話しして。」

「信じるけど?」

「は?」


 素っ頓狂な声が出た。いや、信じてほしいとは思ったけれど、こんなあっさり。

 バカなのか?それとも俺がバカにされてるのか?


「信じるよ。今の話全部。」

「マジで?こんな変な話なのに?なんであっさり信じられるの?」

「だってあんたって、昔からクソ真面目でユーモアのかけらもないつまんないやつだったじゃん。冗談の一つも言わないしさ。そんなあんたがこんな壮大な嘘を考えて、この私に披露できる?否!よってあんたの言うことは全て本当の話。ほら、論理的でしょ?」


 論理もへったくれもない。ついでにユーモアのかけらもないつまんないやつとは失礼な。

 でも姉貴は至って真面目に俺に向き合っていた。


「それに、これが本当だろうが嘘だろうがどーだっていいのよ。珍しくあんたが私にお願いしてんでしょ。姉としてできることはやってあげるわ。」

「…………」

「ついでにその異世界の話とやらが聞けたら私も面白いし」

「なんか、うん……ありがとう。俺、姉貴の弟で良かったわ。」

「なーにわかりきったこと言ってんのよ。ていうか、やるからには全面協力してあげるから、大船に乗った気でいなさい!」


 まずは今の状況を説明して、とノートを広げる姉貴。

 ……なんか、こっちが夕方まで悶々と考えていたのがアホらしくなるほどすんなり信じてもらえたな。

 とりあえず、協力者が得られたことは大きな一歩だ。


 それから俺たちは、面会時間が終わるまであーだこーだ話した。

 衣・食・住を揃える必要があること、これからも農具や生活用品を差し入れてほしいこと、役立ちそうな知識や便利そうなものを提案してほしいこと。

 面会時間が終了しても話は尽きなかったので、明日改めて転送する物資や知識の確認をし、明日の夜にエルネアに渡ることになった。

 こんなに家族と長く喋ったのは久しぶりかもしれない。









 翌日、仕事を終えた姉貴が両手に大荷物を抱えて病室にやってきた。


「おまたせー!」 

「すごい荷物だな。何持ってきたんだよ。」

「フフン、私なりに色々考えたのよ。」


 そう言って荷物を開き出した。


「これは折りたたみのこぎりでしょ、あと軍手。万能ロープに麻ひも、あと野生動物用の罠でしょ、漁業用の網でしょ。手に入れるの苦労したんだよー。私の人脈があってこそだわ。」


 その他、農具やら衣服やらキッチン用品など、色々持ってきてくれたが、流石に一気に向こうに提供するわけにも行かないので、時期を見て少しずつ転送することにした。


「あとコレ、情報こそ力!」


 分厚いファイルを俺の膝にドンと置く。痛いんですけど。


「何これ?」

「昨日色々話して、一緒に調べたじゃない。木造家屋の作り方とか、水路、溜池の作り方とか、全部コピーしてファイリングしたの!あ、ちゃんとファイルも革張りの古書っぽいデザインの選んだのよ!最近の文房具屋はほんと侮れんわ。」

「マジで!?すげえな!仕事早っ!!」

「また必要なものがあればコピーするし、なんならプリンター病室に持ち込む?さすがに怪しまれるか。」

「流石にそれはちょっと……とりあえずこんだけあれば大分助かるよ。一旦向こうに行ってみて、困ったことがあったらメモしてこっちに戻るから。」


 そろそろ面会終了時間だ。


「じゃ、ほんと、ありがとう、姉貴。後は向こうで試してみるよ。」

「しっかりね!なんかあったらメモしときなさいよ!」


 姉貴が帰ると、途端に静まり返る病室。

 ほんと、嵐のような人だな。

 でも、俺の話を信じてくれて、協力者になってくれた。これほどありがたいことはない。

 姉貴は昔から強引だが頭も要領もいいし、心強い助っ人だ。

 事実、このファイリングはかなり役立つと思う。日本語で書かれているから俺しか読めないのが残念だけど、設計図とかは伝わるだろうし。

『賢者の書』と名付けよう。

 後は、作物の種や厳選した農具なんかを小脇に抱えて……


「よし、『転移』」


 俺は意識を手放した。











 病院からの帰り道、私は圭の一言がずっと耳に残っていた。

「余命半年」


「……嘘、でしょ…………?」


 圭とこんなふうに話せるのも、あと半年。

 私の家族が、弟が生きていられるのは、あと半年。


「……圭の、あんな興奮した顔、初めて見たかも。」


 自分が渡したファイルを目見て目を輝かせる圭。


 母親には?言えるわけがない。そもそもが信じられないような話だ。私だって、実際に目の辺りにしたわけじゃない。

 父親……は別に言う必要ないか。仕事にかまけて、私たち子どものことは眼中にない人だ。

 誰にも言えない。苦しい。悲しい。


 でも、誰より苦しいのは圭のはずなんだから。

 私が泣いてる場合じゃない。


「……全く、どこまでも困った弟よ。」


 突然突きつけられた秘密は、帰り道の暗がりに置いていくことにした。


ブクマ、評価、どうぞよろしくお願いします!!

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[一言] おねー様は陰で慟哭しているんだろうなぁ……
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